「何日もお風呂に入れなかったのね」
「そっか、パンクハザードは寒いし暑いし大変だったよね」
「うむ」
「よく温まった?」
「うむ、くるしうない」
「よかったぁ、髪もちゃんと洗ったからサラサラだね!」
「かたじけないでござる」









ドレスローザへ向かうため、俺は麦わら屋の船に乗りドフラミンゴの万が一の襲撃に備えていた。嫌に静かな海上に心地が悪い。……明日の朝刊でアイツからの反応があれば御の字、しかしまだ警戒は解けない。肩に置いた鬼哭を少しだけ握り直した。




「何をさらしとんじゃこのエロガキャ"〜〜〜!!!」




……嫌に静かな筈だったが、どうにもこの船ではそうはいかないようだ。あまりの声に帽子を上げて様子を確認する。……ほぼ裸のニコ屋も訳がわからないが、その近くに立つモモの助を囲む男2人と骨の姿を異様以外になんと表現すべきか分からない。一体何が起きているんだ。

呆れて何を言えばいいかすら分からず、ただそれを眺めていると何処からかナミ屋が割って入り馬鹿3人を殴り倒した。ナミ屋はシーザーの犠牲になっていた子供達しかり、子供が嫌いではないようだ。そのままモモの助をあやすように抱きしめると、胸の中に閉じ込められたモモの助は3人とその奥にいる俺にまでニヤリと酷く厭らしく、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。嘆いた3人とはまた別に被弾した俺は無性な苛立ちに襲われる。別に羨ましいだとかそういう感情は持ち合わせてないが、ガキに舐められるのは納得がいかない。




「う、ぐぅ……!そ、そういえばサナちゃんは……?ロビンちゃんと風呂に入ってた筈じゃ……」
「もうすぐ上がってくるんじゃないかしら?」
「モモくん〜?私と一緒に髪の毛乾かさない?」




木の扉を押し開けて出てきたのはブラウンのバスローブに身を包んだサナだった。先ほどのニコ屋と比べると露出は少ないが普段の服よりは布面積は少なく、日焼けを知らないような素肌が見え隠れしている。……別にそれをわざわざ特筆するべきではないが。珍しい、と感じつつも俺は風呂上がりのアイツが足でも滑らせるんじゃないかと気が気ではなかった。出会ってまだ数日しか経っていないにも関わらず、何度足を引っ掛けて崩れそうになっている姿を見たことか。狙ってなのか、と疑いたくなるほどに俺の目の前で躓くものだから見て見ぬ振りをするわけにもいかず、とりあえず助けてしまっているのが現状だ。……ただでさえ何もない場所でもあぁなんだ、悪条件が重なれば起きない筈がない、と彼女に対して妙な確信を持っていた。




「サナ姫〜!」
「わ!もう、モモくんたら」



モモのすけは機嫌良くサナの元寄ると腕を広げて抱きつこうとする。黒足屋は3度目は無いとでも言うように2人の元へ近づき、咥えたタバコを手に取ると今にも怒鳴ろうとした……が、途中でピタリと動きを止める。それに続いた2人もまた同じように石化する。……嫌な予感とロクでも無い予感の二つを感じつつ立ち上がり俺も事態を確認に向かう。そして、見えた光景に思わず動揺し、身が固まった。


しゃがみこんでモモの助を受け入れた彼女は、モモの助が抱きついたことで腰に巻かれていたベルトが緩み、前面が緩やかなたるみを形成していた。尚且つモモの助が擦り寄ることで合わせが左右に分かれ、谷間から腹部までが綺麗に一直線に確認できてしまっている。本人は子供に夢中で気付いていないようで思わず先に固まった男たちになんとかしろ、の目を向けたが3人の視線は間違いなく胸元に注がれており、なんなら背伸びをしようともしていて俺はまた違う意味で唖然として固まった。何なんだこいつらは……!!!




「じゃあモモくんドライヤー持ってくるからここで待っててくれる?」
「分かったでござる!」




サナはそういうと抱きついているモモの助を下ろそうとする。だが、今のバスローブは最早アイツが腹立たしくも密着して押さえているためギリギリで止まっているがモモの助が離れると、




「!!!……"room"!」
「へ?」
「"シャンブルズ"!」
「あぁああ〜〜〜!?!?」




その場にはポトリ、と外れたベルトと支えていた人間が消え甲板に尻を付いたモモの助だけが残された。何とか間に合った能力の発動に息を吐いた俺に突き刺さる視線が誰のものかは大抵予想がつく。物凄く不本意ながら振り返るとブルブルと震えている3人がそこに立っていた。




「ロー……お前……ッ!なんてことを……!折角のレアな女神サナちゃんのセクシーショットが……!!!」
「そうでござるよロー殿!!!国宝が見られると思って拙者は……!」
「トラ男さん……!今のは流石にそういう流れでしたよね!?私死ぬほど期待して……!まあもう死んでるんですけれど!」
「テメェらみたいな奴等の目に晒されねぇなら俺のやったことは間違いないみたいだな……」





何を!?と俺に掴みかかろうとする黒足屋の後ろにはいつのまにかオレンジ色の髪が揺れている。背後に閻魔か何かを背負うような気迫を持つナミ屋が腕を高く上げ、そして思い切り振り下ろす。連続して落ちた拳に倒れ込んだ男達を冷たい目で見下ろした彼女は「サナをありがとうトラ男くん」とにっこりと笑うと俺がサナを飛ばした女部屋の方へと歩いていく。間抜けにも崩れ落ちた3人を自業自得だ、と鼻で笑うのと同時にナミ屋を下手に怒らせるのはやめることを誓った。















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