愛らしい







「これじゃぁいつまで経っても男なんて出来やしない!」
「あー……サナさん、だいぶ酔ってます?」
「酔ってない!」





バン、と強く頭をカウンターに打ち付けた彼女に少し息を吐く。これは相当酔っているらしい、と一目で見て取れた。他の幹部がまた始まった、と囁いた声からして飲んだ彼女には珍しいことではないようだ。


革命軍として一つのヤマを越えてその祝いに宴を楽しんでいた俺は、前々からよく話していた女の先輩サナさんの隣に座ることが出来た。サナさんは美人で聡明。日々の仕事も真面目にこなし、尊敬に値する人物だ。実際革命軍の中でも彼女を慕う人は多く、彼女自身も面倒見が悪くないから好かれるのも納得がいく。だからこそ、こうして飲みの席で俺以外が彼女の隣を狙わなかったことには少し違和感があったが……なるほど、そういう理由らしい。




「でもサナさんは凄く美人じゃないですか、すぐに出来ると思うけどなぁ」
「あのねぇ、サボくん……出来てたら私、今こうして飲んでると思う?」
「……まあ、確かに」
「ほらぁ……なんなのよ、もう……」




いつもの丁寧できっちりした様子は何処へやら。ぐったりと体をカウンターに預ける彼女にはものすごいギャップを感じる。確かに普段の彼女に幻想を抱く奴等はこれを見ると驚くのかもしれない、と内心苦笑いした。俺の反応に仲間たちもほら見ろ、と言わんばかりの視線を向けていた。だから前にサナさんが美人だという話を同期に持ちかけたときに複雑そうな顔をされたのか、と合点がいった。




「じゃあサナさんはどういう男が好みなんですか?」
「……なに、それ話したら紹介でもしてくれるの?」
「当てはまる奴がいればね」




じ、と俺を見つめた彼女は少ししてから息を吐き出す。それから、心なしか体を起こして肘をつくと天井を見上げ、至極真剣な顔で考え始めた。こういうところ、俺は結構好きなんだけどなぁ。何事にも真面目に考えちゃう、堅いところ。




「まず……私より身長が高い人」
「サナさん、スラっとしてるもんな」
「あと……かっこいい、ひと」
「と言うと?」
「……顔が良い人?それと性格も……頼れる人がいい」
「あぁ、そういう奴か。強さとかはどう?」
「強さ?強さは別に……私が守ればいいし」
「うわ、男前!流石サナさん」




俺の相槌に彼女はゆっくりとこちらに目を向ける。少し胡散臭そうな俺を疑う目。ただ楽しんでいるんじゃないか?とそんな意思が伝わるような目線。普段は割とポーカーフェイスなのにお酒を飲むと案外顔に出るのだろうか、可愛らしいな。あぁでも、普段も嬉しい時とかは結構笑うし……偵察先の名物スイーツとか買っていくといつも喜んでるもんなぁ、うん、やっぱり結構素直な人だと思う。と、そこまで思案して改めて彼女の方に目を向ければ尚更俺のことを眉を寄せて見つめているのについ、噴き出す。うーん、かわいいな。





「……サボくんからかったでしょ?」
「どうしてそう思うんです?」
「そういう顔してる」
「それはサナさんの読み違いですよ。……俺は凄くいい相手が浮かんだから笑っちゃって」
「え?ほんと?」
「ほんとです。サナさん…………俺とか、どうです?」
「…………はぁ?」





心から意味がわからないといった顔のサナさんにまた思わず笑みがこぼれる。やっぱ素直だ、この人、と俺が楽しんでいると不愉快そうに彼女は眉間に皺を寄せる。「ほら、からかってるじゃん」と言うその口調は拗ねたようでこれもまた可愛い。




「いや、本気だって。まず俺は身長187センチで、」
「……まあ、私よりはデカイ」
「顔は?サナさん、どう?」
「どう、って……悪くないけど……」
「お、嬉しいなァ。じゃあ性格は?」
「……我らが革命軍の誇るNo.2参謀総長サマ」
「それ、褒めてる?」
「一応……頼りにはしてるけど」
「マジか!聞いてよかった」
「……ねぇ、サボくんやっぱからかってない?」
「いやいや、本気だよ。俺サナさんのこと前から好きだし可愛いし綺麗だなって思ってたし……」
「ちょ、ちょ、っと待って……な、なに?」
「何って……俺と付き合ってください、ってことなんだけど」




本気で訳がわからないって顔のサナさんも可愛いんだけど困らせるのが本意ではないため端的にそう伝えると、ぽかん、と口を一瞬開いてから、じわじわと沸騰するように顔の赤さが滲み出るのが物凄く愛らしくて胸が痛い。何言ってんの、と聞くそれが困惑と羞恥が入り混じっているようでソワソワと落ち着かなさそうなのも、つい、にやけそうだ。




「どう?サナさん。俺なんてまだ若いしお試しにでもしてみない?」
「お、お試しって、」
「嫌なら振ってくれたらいいよ。な?悪い条件じゃないと思うけど……あ、それに」
「それに……?」
「サナさんは頼もしいから自分が守るって言ってたし、勿論俺もまだ守られることも多いけど……」
「う、うん……」
「俺はサナさんに無理はして欲しくないから、いつかサナさんが誰かを守らなくていいくらいに強くなる、絶対」
「……な、」
「それでも、ダメ?」




俺がまっすぐに見つめるのに彼女は目を逸らそうとするが、すぐにハッとしたようにしっかりと合わせてくる。こういう律儀なところも素敵だ。大方告白してきた相手に失礼だとでも思っているんだろうなぁ、いやぁ、本当に魅力的だ。




「……その、えと、サボくん……」
「うん」
「…………ほ、保留で!」
「……そう言うと思った!勿論いいよ、真面目なサナさんが答えを出すまで俺はずっと好きだから」
「ッあ、あんたすぐそういうことを……!」




ワナワナと震えてから顔を覆い隠してしまう彼女のいじらしさが本当に可愛らしい。数秒後俺たちのやり取りを見守っていた同志たちの驚きの声が巻き起こり、大騒ぎになってサナさんが一喝していた。俺はくつくつと喉を鳴らして酒を喉に通す。駆け引きなんてつもりはない。俺はただ彼女への素直な気持ちを伝えたに過ぎない。どちらにせよきっと悪い方には転がらないだろう、その自信を胸に隣に目を向ける。生娘のような反応をする彼女がどこまでも愛おしかった。










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