閑話






「お、来たな、ロビン!」
「良く来たな!ロォビン!」
「ええ、待たせたかしら?」





綺麗に笑ったロビンに俺とフランキーは顔を見合わせてから「いや、今来たところだ!」と意気揚々と笑うと、なら良かった、と彼女は柔らかく笑顔を作った。花の都の隅に構える小さな食事処、俺達は今そこに集まっている。まぁ、若干名足りないが……何も無ければ一人はともかく、彼女はもうすぐ来るだろう。



今日はここ最近のそれぞれが得た情報を共有するためにもこうして部屋の一つを貸し切っていた。主に財源はロビンが集めてくれたが、有難や、と頭を下げたのはまだ記憶に新しい。ワノ国にルフィ達より先に着いている俺たちは自分の出来ることを活かしながらこの国に溶け込み、錦えもんの作戦に従って行動しているが、皆なんやかんや様になっている気がしなくもない。フランキーは明日の仕事の内容を確認しているし、ロビンは小さく振りを練習したり、かくいう俺もどうやって更にがまの油を売ろうかと試行を続けていると、ふ、とロビンが呟いた。





「そういえば……最近私はなかなかサナに会えていないのだけれど、彼女は元気?」
「いや、それがさァ……俺もすれ違う程度にしか会えてねぇんだけど、アイツずっとトラ男といるみたいだぞ」
「トラ男くんと?」





どうして?と不思議そうに首をかしげるロビンにこの前見かけた光景を思い出す。確かあの時、俺は変わらず道端でがまの油を売っていたが、客を見渡した時に覚えのある後ろ姿を目撃した。着物の柄や色からしてもどう考えてもサナ本人だったが、その隣には黒っぽい着物に編笠を深く被った男が付いていたのだ。ん?と目を凝らしてよくよく観察していると、人混みに押されてバランスを崩したであろう彼女が空いたスペースへと弾き出された、が、それを非常に慣れた様子で隣の男が支えた。その男は焦りを見せるわけでもなく彼女の手首を捕まえるとそのまま路地の方へと消えていった。俺にはその光景がなんだか懐かしい気がした。そう、2人はサニーでもあんなやり取りをしていた。今でこそスマートに彼女を助けているが、あの頃はそうでは無かったはずだ。そんなに時間は経っていないけれど、何がトラ男を変えたのか、ほんの少し興味があった。この事は数日前にそれこそ奇跡的に巡り会えたゾロにもちょっとした世間話のつもりで教えたると、彼は彼でへぇ、となんとも悪どく笑っていた気がしたが多分気のせいだと思う。思いたい。ロビンとフランキーは話を聞き終えるとお互い揃って顎のあたりに手を置くと、似たようなタイミングで





「やっぱりトラ男くんはサナのことが好きなのかしら」
「アイツやっぱりサナに惚れてんじゃねぇのか?」





と口にする。おいおい、と思うが大方俺も同意見だ。まぁそりゃあサナは可愛いと思うし、ああ見えて案外意志が強いところもあってそのせいか昔から変な奴に惹かれることも多かったけど、今度はトラ男かぁ。今までの奴らに比べたらだいぶとマシではあるし実力もある、悪くない話だとは思うがいかんせん俺も、ここにいる2人も他の奴らも彼女のことを好いている。易々と渡す事はできない。






「……でもサナも割と楽しそうなんだよなぁ」
「そうね、トラ男くんといるといつも笑っているし」
「……ま、色恋に外野がとやかく言うもんじゃねぇけどな」






フランキーのその場を納めるような一言にそれもそうだ、と座布団へと座り直す。ロビンもそうね、と穏やかに頷くと同じように姿勢を整える。まだ渦中の彼女はこない。







「でも、もし彼らがそういう関係になったとしても」
「ん?」
「きっと離れてしまうわね」
「……あぁ」
「海の何処かで逢いましょうってか?泣かせるじゃねぇかよォ〜……」







確かにロビンの言う事は事実だ。俺たちは海賊で、勿論サナもトラ男も海賊なのだ。トラ男やトラ男の仲間はいい奴だったしこうやって同盟を結んだ仲だがいつまでもこのままと言うわけにはいかない。いつになるかは定かではないがいつか、この関係も終わりを告げるはずだ。そして当初の終わりはここワノ国を支配する四皇カイドウの討伐。……2人に残された時間は案外、僅かなのかもしれない。どうするのかしら、彼。と静かな部屋に響いたロビンの声は淡々としていたが、実際どうなるのだろうか。トラ男が彼女に少なからず好意があるのは最早周知の事実、俺としては収まるところに収まっては欲しい。応援、と言っていいのか分からないが、不幸な結末になるのはごめんだった。







「っ、わ、」
「うぉ!?」
「……サナ!?オメェ、今どこから……」
「これは……トラ男くんの能力?」
「み、みんな!良かった……遅くなってごめんね!」






突然目の前にパッと、現れたのは正に俺が考えていた彼女だった。まるで魔法のように何もない空間から飛び出してきたサナはゆっくりと机から足を下ろす。どうしてまたこんな登場を、と呆れながら問いかけると"長くまで残った客の対応に困っているとローくんが来て助けてくれた"らしい。……アイツはほんと甲斐甲斐しいというか、心配性というか……明らかに遅刻であるこの状況を彼に伝えるとなんともお優しい事で、彼は瞬時に飛ばしてくれたとの事だ。キョロキョロと見渡した彼女がゾロの所在について尋ねたがゆっくり首を横に振ると全てを察したらしく、あぁ……と同情するようにサナは頷いた。……じゃあ先に始めておきましょうか、と自然と話に持ち込むロビンの報告に乗りかかるように俺も気付いたことについて話していく。花の都は綺麗な街だが、このワノ国の貧富の差は深刻で役人たちのおこぼれを募るようなおこぼれ町なんて街すら存在する。なかなか根深い問題が多いこの国は支配で張り巡らされている。隣で何枚かの紙を真剣に眺めているサナにも頃合いを見て成果を尋ねた。






「サナ、錦えもんの同心たちは見つかった?」
「うん、こんな国だからこそ反感を持つ人も多くて1日に何人も見かけてるよ。意外と協力してくれる人は多くなるかな?」
「成る程なァ……まあ、まだ動く時じゃねぇ……このまま俺たちはルフィが来るまで続けて潜伏しようじゃねぇか」
「そうね、出来ることをして到着を待ちましょう……それと、サナ、」
「ん?」
「トラ男くんとは、どう?」





突然ロビンが投げ込んだ言葉に俺とフランキーはギョッとして目を見開く。聞かれた本人は頭にハテナを浮かべるように首をかしげると「どうって?」と聞き返した。それに対してロビンは最近彼とはよく会ってるの?と質問を変えるとサナは特に迷いもなく頷いて殆ど毎日会ってるよ、と答えた。つーか毎日会ってるのか……トラ男が通ってんのかな、なんてぼんやりと考えていると隣に座るフランキーが口を開く。





「そんでおめぇら……何してるんだ?」
「うーんと……ローくんはいつも私が変なお客さんに絡まれてないか確認しに来てくれて、実際助けてもくれてるし……あとはローくんのマッサージもよくするかな?」
「アイツがいつもお前んとこに来るのか?」
「そうだね、私はお店離れられないし……」
「……そりゃあなんつーか、甲斐甲斐しいこって」





半ば呆れたようなフランキーの言い回しにサナはまた不思議そうにしている。もうここまで来るとトラ男の頑張りに泣かされそうだ。案外尽くすタイプなのか、アイツ……としみじみする俺とそうなのね、と面白そうに笑うロビンに彼女は頷いてローくんはすごく優しいんだよ、と嬉しそうにしている。そうかそうか、と彼女の話すトラ男像に驚いたり、感謝したり、はたまた同情しているうちに夜も刻々と更けていく。そろそろ、お開きにしましょうか、そう言ったロビンに皆が時計を見て頷いた。









「……ローくん?」





つい先ほど俺がサナを送り、フランキーがロビンを送る、と決めたのだが、その予定はあっさりと崩された。店の外に立つ大きな刀を肩に置く彼は不機嫌そうにこちらを見ている。彼の名前呼んだサナも待っていることを知らなかったようで驚きながらトラ男に駆け寄って行った。





「……お前、1時間ぐらいだって言ってたのはどうなったんだ」
「ご、ごめん、つい楽しくて……ローくん、なんでここに……?」
「…………ついで、だ」





苦々しくそう言う彼にそうなんだ……?と戸惑いつつも信じる彼女がもどかしい。そんな訳あるか、お前の為だよ!と突っ込みたくなる気持ちをグッと抑えた俺を褒めて欲しい。フランキーはへぇ、と面白そうに眉を上げ、ロビンは微笑ましそうに笑うと「よろしくね、トラ男くん」と一任する事を決めたようだった。






「あァ……」
「貴方、本当に……"そう"なのね」
「……俺は送った手前、帰りに何かあったら目覚めが悪いと思っただけだ」
「素直じゃねぇなぁ、まあ否定はしねぇが……」
「……何が言いたいか分からねぇな。行くぞ、サナ」
「あ、うん!ありがとうみんな、またね!」






慌てて俺たちに手を振った彼女に同じように振り返す。それをある程度見届けたトラ男はサナの肩を引き寄せると指を動かし、その瞬間2人は忽然と姿を消す。残された俺たちは顔を見合わせて、随分と過保護らしい彼に想いを馳せる。王子登場ってか?と笑うフランキーにそんなに綺麗なものだったかしら?とロビンが口元を緩める。なんと言うか俺ももどかしいやらなんやらで応援したい気持ちが芽生えて、頑張れよ、トラ男、と空を見上げる。今日は星が綺麗に見えた気がした。……おい、ゾロ、お前もきっと何処かでこれを見上げてるんだろうな。なんて、やっぱりアイツは得意の方向音痴が祟ったのか、最後まで今日は現れなかった。






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