クルーの見解




俺たちの船の中で今持ちきりな話題は、ある一人の女性についてのことだ。





彼女の名前はアトラス・サナ。廊下ですれ違うと人当たりの良い笑顔を浮かべて挨拶をしてくれたり、世間話の一環で肩が凝っていると言えば揉みほぐして楽にしてくれたり、と優しく、それに加えてふんわりとした雰囲気が俺たちから見ても非常に可愛らしい人だ。ただ、それだけでは話題に上るには弱い。そう、俺たちが一番重要視しているのはキャプテンとの関係だ。


麦わらとの同盟については新聞で知っていたからあまり驚きはしなかったし、キャプテンの決定に異論を唱えるつもりも無かった。だからこそ、ゾウで初めて会ったか弱そうな女性が俺たちのキャプテンを「ローくん」と呼び、親しそうにしている姿に目を疑った。キャプテンもまた何処か慣れたように「サナ」と彼女を呼び捨てにしている。もしかして俺たちがいない間に"そういう人"を作ったのか!?と疑ったが、本人達の話を聞く限りどうやらそうでもないらしい。



キャプテンは俺が言うのもなんだけど、すぐに他人に心を開くタイプではないと思う。それが麦わらの一味というこの海でも相当イレギュラーな彼等に多少振り回されていたり、何よりそこに所属するセラピストの女性にこんなにも穏やかに接しているのは本当に珍しい事だった。元々女性関係の話は聞いたこともないし、町に下船した時に買っているのかもしれないがそんな痕跡を残すタイプでもないからこそ、熱い話題なのである。





「なぁ、実際どう思うよ」
「キャプテンとサナさん?」
「いやぁ……でも、あんなに、なぁ?」
「まぁねぇ……」





そして、大体話していてもこういう空気で完結するのもまた、いつものことなのだけれども。それでもやっぱり気になるものは気になるのだ。つなぎ姿を見たキャプテンは明らかに動揺していたし、決して嫌がっているようにも見えなかった。サナさんは終始不安そうにしていたのを見るに、キャプテンの真意は彼女には伝わっていないような気がする。ま、俺だって分かんないけどさ。




「もしさ、キャプテンが本当にそうなら……どうするんだろうな」
「うーん……」
「例えばサナさんが元々うちのクルーだったらキャプテン、どう思ってたんだろう」
「……案外、普通だったんじゃね?キャプテン仲間を大切にしてるし」
「あぁ、逆に?そういう風に見ないみたいな」
「そうそう」




確かに、その可能性はあるかもしれない。キャプテンは仲間が危ない時は自分から引き剥がすことも多い。一人で背負ってしまうタイプの人間だ。それが彼の優しさだとは理解しているが、どうにも歯痒い思いをしているのは事実だった。だからこそ、ドレスローザで彼と共に走ったであろう彼女だからこそ思うところがあるかもしれない。キャプテンは麦わらの一味のサナさんだからこそ、特別に感じているのだろうか。


……でも、今もそうなのだろうか?ふ、と俺の中に疑問が生じる。うちのキャプテンは慎重に事を進めるときが多いが、場合によっては直感も信じるタイプだし、波に乗らず大人しくしているタイプでもない。何より一つの海賊団の船長だ、医者である彼が殺生を好まないのとは違って、他の海賊らしさ、は持っている筈だ。だからこそ俺は思う。





「……キャプテンはキャプテンらしく、何も考えず、欲しいもんは奪い取ればいいのになァ」
「お前それ……」
「キャプテンに聞かれたら切られるぞ」





俺の呟いた言葉に恐々とした目を向けた仲間達に肩を竦めた。でも心からそう思うのだ、それが彼の幸せとか満足感に繋がるんだったら、そうするのもアリなんじゃないかって。今船には乗っていない、麦わら帽子の男がぼんやりと頭に浮かんだ。アイツはキャプテンがそうした時、どうするんだろうか。




「……もうこんな時間か、ぼちぼち飯できるな」
「じゃあ俺がキャプテン呼んでくるわ」
「おう、頼んだ」




話に区切りがついてシャチが時計を見上げるともう晩飯の時間に近づいていたので俺は立ち上がってキャプテンの部屋へと向かった。最近はワノ国に着いてからすべき事を考えているようだから部屋で一人で食べるのかな、だとかなんとなく想像をしつつも、彼の部屋をノックした。





「キャプテンもうすぐ飯ができますけど、どうしますか?」




静寂の中に俺の声が響いた。いつもなら数秒経てば返事が返ってくるのだが今日は一向に彼の声は聞こえない。部屋にいないのだろうか?その確認をするためにもそっとドアノブに手を伸ばした。





「失礼しま…………」





す、と最後の音は広がる光景を目にすると声にならなかった。思わず呆然と飛び込んできた情報を凝視する。キャプテンの整えられたベッドに座るのはサナさんだった。そしてその足の上にはキャプテンの頭が乗っかっている。長い足が投げ出されるように伸びた彼はピクリとも動かない。少し驚いた顔をしていたサナさんは目をパチパチと瞬かせてから少し眉を下げて笑った。





「あ……ペンギンさん、ごめんなさいノックに応えられなくて」
「…サナさん、え、と、これは……」
「ローくん、マッサージしてから耳かきすると寝ちゃうこと多いんです」





平然と紡がれたその言葉に驚きが隠せない。キャプテンは基本的にショートスリーパーでこんな風に仮眠を取るタイプではない。ましてや他人がいるところで、なんなら膝枕で眠れるようなタイプでは無いはずだ。しかしこの光景は顔こそはサナさんの方を向けているが俺がこうして入ってきても、ノックしても起きる様子の無いほど入眠している彼はかなり深く、質の良い眠りについているのだと証明されている。ゆっくりとした動作で彼の髪を撫でる彼女は非常に柔らかい表情をしており、全てを包み込むような慈しみ溢れる女神のように思えた。





「……麦わらの船にいるときから、その……よく?」
「はい、マッサージを受けにきてくれるようになってからはこうして眠ることが多いかな……ローくん、あんまり寝ないみたいだから、これで元気になってくれるといいんだけど」
「そうだったんですね……因みにどれくらい……」
「ええと、今で1時間くらい、ですかね?」




時計を確認する彼女はうん、そうだ、と小さく頷いた。1時間、キャプテンはそんなにも眠っていたのか……と最早感動の域へと達しようとしていた。サナさんは、あ、と声を上げてからもうすぐご飯なんですよね、どうしましょうか、と決断を仰ぐように俺を見た。確かに飯はもうすぐだがキャプテンを思うと俺の答えるべきは二つに一つだ。





「いえ、大丈夫っす。キャプテンとサナさんの分は取っておくんで後で二人で来てください」
「ほんとですか?すみません……ありがとうございます」
「……や、寧ろ俺こそありがとう、っていうか……キャプテンが起きるまでそのままでいてやってもらえますか?」
「それはもちろん。責任持ってお預かり致します」




そう言って口元に柔らかく愛嬌のある微笑みを咲かせた彼女に一瞬見惚れそうになったのをブンブンと振り落とし、失礼します!と敬礼をしてその場を立ち去った俺は、繊細な動作でドアを閉めきってから食堂へと急いだ。そう、伝えなければ、重要なことを。徐々に集まりつつある船員達にす、と息を吸い込み俺は言った。




「厳戒態勢!キャプテン自室にてサナさんの元で就寝中!雑音厳禁!廊下は静かに歩行せよ!」







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