むかうは





少し頭を痛めつつ目覚めた今朝から数時間。はじめこそは心配したものの、なんともミンク族と侍には私達が生まれるより前からの長い繋がりがあるらしく、皆が首を垂れて彼等を歓迎をした。ミンク族は錦えもん達に雷ぞうさんが無事であることを告げ、私たちを彼の元へと連れて行った。はじめて見た忍者さんはルフィ達にぞんざいな扱いを受けかけていたが、忍術を見た彼等に掌を翻すようにキラキラと尊敬の眼差しを向けられていた。また、ラフテルの場所を示すロードポーネグリフも存在していて、なんだか目まぐるしく感じる。新世界には驚く事がまだまだ残っているようだ。



里の方まで戻れば雷ぞうさんを歓迎するミンク達が宴だ!と楽しく騒いでいる。ルフィもそれに参加しようとしたがナミにサンジくんを助けに行くんでしょう!と止められていた。……一人、ビッグマムのところに行ったサンジくん。彼は優しい人だから、きっと私たちを巻き込まないようにその選択を選んだ筈だ。私は彼が嘘をつくような人ではない、と信じているが……仲間想いのサンジくんならもしかすると、私達を助けるための嘘ならついてしまうんじゃないか、とも思えてしまう。彼の優しさに付け入るような事態に胸が痛む。サンジくんは今、無事だろうか。




「え?」
「ん!?」




いつも料理を作ってくれるサンジくんの後ろ姿をぼんやりと思い出していた時、突然凄まじい地響きと共に地面が動き出した。様々な場所で悲鳴が上がり、更にそれをかき消すような大きな象の鳴き声が島全体に轟いた。倒壊していく建物、逃げ惑う人々、傾いた地面が全てを滑り落としてしまいそうで、向かって倒れてくる大木がスローモーションのように見えた。







「お前は本当にッ……!危機回避能力がねェのか!?」
「っえ!?」






ぐ、と突然腰に腕が回り、かなりの力で引き上げられたのを感じる。少し息がつまる程の力強さで、私は、気づけばローくんに抱えられていた。彼はシャンブルズで私を引き寄せた後、片腕で抱きかかえ、もう片方の腕で木を掴んで振り落とされないように耐えている。歯を食いしばり、少し汗を流す彼にとって今の私は間違いなく負担であると察することができた。未だグラグラと傾くゾウの背、ローくんに支えられながら下を見る……この高さなら一直線に海というわけではないだろう、運が良ければ大きな怪我もない筈だ。






「ローくん、私の……!」
「ッそれ以上馬鹿なこと言ったら切り刻んでやる……!いいから黙ってろ!」





一喝するように声を上げた彼に吐きだしかけた言葉を飲み込んだ。彼の目は厳しく私を捉えていて、つい言葉を失う。数秒見つめ合った後、象主がまた大きく体を揺らして私と彼は反対へと投げ出され、すかさずローくんは私を庇うように背中から抱き込んだ。




「っ……!ろーくん!」
「問題ねぇ……!次の揺れが来る前に立て!サナ!!」




彼の言葉に強く頷いて足に力を入れる。横目でローくんが怪我をしなかったかを確認したが出血や押さえている箇所は見当たらず、少しだけ息を吐き出す。良かった、彼に何かあればどうやって責任をとればいいのか分からなかった。気持ちを切り替えて皆の話を聞く限り、どうやら象主が外から攻撃を受けているようで痛みに苦しみ、体が揺れているようだった。イヌアラシさん達は兵を派遣して対処しようとしている。中心の方で頭を抱えて苦しんでいるモモにルフィは真剣な声を上げる







「モモ!お前が言え!!!お前の声なら届く気がする!ゾウがやられたら俺たちみんな海の底だぞ!」
「しかしどんな大声を出せば……」
「いいから叫べ!ゾウが死ぬぞ!」
「……っ!負けるなゾウ!倒れてはならぬ!!ジャックを追い払ってくれー!!!」







モモが深く息を吸ってから大きな声でない叫ぶと先ほどまで激しかった揺れが一瞬にして鎮まり、あたりは静寂に包まれた。暫くその場の誰もが状況が分からず困惑していると見張りからの報告により象主が自らジャックの艦隊を海に沈めたと知らされる。脅威が去ったことに少し安心しつつ、はっと思い出したように私はローくんのそばに駆け寄った。






「ローくん!さっきはごめんなさい……!」
「……それは、助けたことについてか?それとも自分を犠牲にしようとしたことか?」
「それは……」
「お前は……ドレスローザで俺に言ったよな?無茶をするな、と」





明らかな怒りが滲む顔に視線がゆっくりと地面へと落ちる。確かに私は彼にそう言った。それは彼が自分の身を顧みない行動に出ては傷付いていたからだ。だからこそ彼が言いたいことは理解していた。……ごめんなさい、無茶しようとして。と素直に自分の非を詫びると深い溜息をついた後に彼は呆れた声で続けた。




「俺もお前には……無茶をしてほしくないと、思っている」
「ローくん……」
「だからもう、やめろ」




彼の瞳には少しだけ不安そうな色が見えた気がした。ローくんは優しい人だし、医者だ。目の前で傷つく人間がいては放ってはおけないんだと思う。尚更申し訳ないことをしてしまった、と改めて反省した。あの局面で私一人が無茶をしても彼はきっと助けに来てくれたんだと思う、もしそうなれば結果的に彼も危険に巻き込まれる可能性があった。






「……ごめんなさい、ローくん」
「別に俺はお前に謝られたいわけじゃない。……もうしないなら、いい」






ゆっくりと顔を逸らした彼は帽子を被り直した。私に何度も謝られるのがどうにもバツ悪かったんだと思う。彼はよくこうする癖がある。それに何となくローくんらしさを感じて口の中で小さく笑った。彼はやっぱり根本的に優しい。





「サナ!トラ男!」
「ルフィ?」




彼の人間性に触れて少し穏やかな気持ちになっていると向こうからルフィが走ってくるのが見える。何だかとても楽しそうな彼は大きなリュックを背負っていた。もうそろそろサンジくんのところに向かうのだろうか?





「サナ!俺たちはサンジを迎えに行く!サナとゾロ達はトラ男とワノ国だ!」
「うん、分かった。気をつけてね、ルフィ」
「おう!……トラ男!サナを頼んだ!」
「……なんで俺が頼まれるんだ」




意気揚々とローくんに頼んだルフィにローくんは眉を寄せて苦い顔をした。面倒ごとはごめんだ、と言わんばかりの表情に思わず私も苦笑する。彼は私たちと関わってから色々と大変なことばかりを経験している気がする。私は彼と出会えて良かったとは思っているけれど……負担になっていたらまたマッサージでもしてあげようかな、なんてぼんやりと想像しているとローくんが急に大きな声をあげた。






「お前、今なんつった!?」
「だからァ〜……ワノ国までトラ男にサナを任せる!頼んだぞ!」
「な、んでわざわざ俺なんだ!!誰が許可した!?」
「ナミとゾロもその方が良いって言ってた!俺もお前なら大丈夫だと思う!あとお前の仲間は歓迎してたぞ!!!」
「アイツら……!」





盛大に舌打ちをするローくんとは正反対に大らかに笑うルフィは私を見るとワノ国でまた会うぞ!とにぃ、と歯を見せる。何だかルフィらしいな、と思いながらサンジくんをよろしくね、と頼むと大きく頷いて来た道を戻るように走っていく。それを見守りつつローくんに「見送りに行こう」と声をかけると不可解なものを見るように彼は私を見下ろした。





「お前なんでそんなにすぐに受け入れられるんだ……」
「?ルフィはいつもこうだし……あ、でもローくんが嫌なら私は……」
「別に、嫌とは言ってねぇ、ただ漠然と任せると言われても困るってだけだ」
「わたし雑用でもなんでもやるよ!任せて!」
「……マッサージって言え、そこは」





彼の言葉に少し驚いた私はまたマッサージしてもいいの?と聞き返す。彼はそれにもっと不可解そうな顔をすると「あんなに言ったのにまだお前には自信がないのか」と言われたので慌てて、ローくんのクルーさんがやるのかと思って、と素直に考えを述べれば彼は少しだけ間を空けてからお前が良いなら、と小さな声で呟く。それを聞き逃さなかった私がつい、是非!と大きな声で答えるのに彼は軽く睨みつけたけれど、それが本気でないことは分かっていた。……ルフィなら大丈夫。私はそれを信じて先にワノ国で待っていればいい、私には私のできることをすればいい。……そうしてなんとなく安心することができるのは隣で彼が歩いてくれているからなのかもしれない、と思った。


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