否、納得




キャ、キャプテンー!!!と頼りない声がする 目の前に広がる光景に思わずため息を吐く。なにがどうすればこうなるんだ、とクルー達に視線で訴えた。




「……何があった」
「ごめんキャプテン!楽しくなっちまって……サナにも飲ませすぎちまった」
「…………はぁ……」




サナは体を縮こめ、少し口を開きながらベポの腕の中ですやすやと眠っている。ぼんやりと紅潮した頬と首元を見るに、それなりに飲んだであろうことが分かった。再度息を吐いてクルー達に目を向けるが、全員が一律に頭垂れており反省の色が伺える。……潰しちまったもんは仕方ない、だが他の船のクルーだ、ある程度の落とし前は付けなきゃならねぇ。




「貸せ、麦わら屋の方に持っていく」
「悪かったキャプテン……折角のサナさんとの時間を……」
「はァ?……まあいい、やっちまったもんは仕方ねぇ」




ベポがそっと繊細な動作で起こさないように、と俺の前へと抱えた彼女を運ぶ。それをそのまま膝裏と背中のあたりを支えて下から掬い上げるように受け取った。……気は引けるが、寝てる相手を持ち上げるにはこれ以外の抱き方が思いつかない。背中に突き刺さるクルーの好奇の目を意識しないようにしつつ、騒ぎの中へと歩いて行った。




あたりを見渡すと何処かしこでも皆が騒いでおり無礼講といった様子だ。コイツを誰に任せるべきなのか少し遠巻きに確認していく。まずはじめに見つけたのはナミ屋だ。ナミ屋は同性ということもあり変な心配をする必要はないが……このまま出ていけば何かしら絡まれるのは目に見えている。大方邪推でもされて面白がられるのがオチだろう。……やめだ。ナミ屋の前には行かねぇ。


次に見つけたのは船長である麦わら屋だ。ミンク族と楽しそうに乾杯をしたり踊っているようだが……あの調子だとサナを見ていられるとは到底思えない。コイツを忘れて何処かにでも行かれたら意味が無いのだ。脳内に却下、の文字が浮かんだ。


誰かもっとまともな奴はいないのか、と目を皿のようにするが中々見つからない。俺も若干諦めの域に達しようとしていた時、少しはずれに生えた木の下にロロノア屋が寝転がっていることに気付いた。色々と思案する前に俺の中ではもう、コイツでいいかと妥協の感情が芽生えていた。人も少なく目立ちにくいこともあり俺の足はそちらへと向かっていく。暫く目を閉じていたロロノア屋だったが、俺が一定の距離感に達するとゆっくりと右目を開く。




「……トラ男か……その腕のは……」
「ロロノア屋、悪い。うちのクルーがコイツを酔い潰した」
「……すぐにか?」
「あ?」
「……いや、いい。置いとけ、預かっとく」
「助かる」




少し気になる言い回しがあったが端的にサナを受け取ってもらえたのは大きい。ゆっくりとロロノア屋の隣に彼女を起こさなようにそっと下ろし、軽く服装を整えてやる。ここまでしてやったなら文句はないだろう。俺が邪魔したな、と帽子を引き下げてその場を去ろうとすると「待て、」と声が掛けられた。




「……なんだ?」
「まだ酒が残ってんだ、付き合えよ」
「はぁ?なんで俺が……」
「いいから、オラ座れよ」




半ば強引にロロノア屋は俺を座らせると図られたかのようの余っていたジョッキに酒を注ぎ始める。おい、と抗議するも聞く気は無いらしく並々に注がれたそれを俺に差し出す。めんどくさいことになった、と感じつつもここまで用意されては断るきもうせ、仕方なく受け取るとロロノア屋のジョッキと付き合わせた。





「っあー……美味ェ……やっぱり酒はいいな」
「……お前、もう大分飲んでただろ」
「幾ら飲んでも美味いんだからいいだろ……そうだ、トラ男」
「なんだ」
「お前、サナに惚れてんのか?」





思いがけない問いかけに喉に流していた酒がげほ、げほ、と噎せ返る。あまりに平然とした様子で投げかけられた言葉にバッとロロノア屋を見るが表情は読めない。何を考えているんだコイツは……!






「何度も言うが……俺とサナの間には何の関係もねぇ……!」
「関係が無いのはわぁってるよ、でも、お前はどうなんだよ」
「どう、って……」





ロロノア屋の言いたい事が察せないという訳では無かった。俺自身、彼女に関する事になると感情的になりやすかったり、らしさが乱される部分があるのは事実だった。だが、それに対して何かしら名前が付くほどではないと思っていた。それこそ、たった二文字に当てはめられるほど単純でもないのだ。





「お前は……お前は、どうなんだ」
「……は?俺?」
「…………あぁ」




浮かんだのは今朝の景色。慣れたように彼女を助けたそれには何か意図があるのだろうか。もし無いとすればそれは俺にも当てはまる筈だ。ただ、目の前で転びそうになったから助けた、それだけに過ぎないのであれば俺も同じだ、と言うことが出来るはずだ。




「そうだなァ……お前にはアイツがどう見えてるのか知らねぇが……アイツは、強いぞ」
「……強い?」
「勿論、戦闘じゃあタカが知れてる、アイツは別に戦闘員じゃねぇ、サナにはサナなりの強さがある」





そう語るあいつはどこか懐かしそうだった。何かを思い出すような顔つきはきっと、昔の彼女を見ている。俺は知らない彼女のことを。そんなロロノア屋を見ていると胸の奥底の漠然とした黒ずみが浮き出てくる気がした。こんなもの、必要ない筈なのに。




「誰かの苦しみに寄り添うことができる……そこに居るだけで相手の気を楽にさせちまうような、無意識に何かを掬い上げるヤツだ。……お前も心当たりがあるんじゃないか」
「……それは、」
「ま、そのくせにドジだし、注意力もねぇし、危機感も薄い。ほっとけないヤツだよ」
「それが、お前の答えか?」
「さァな……俺やお前も、あいつの無意識に助けられてるかもしれねぇしな」





くつくつと喉の奥の方で笑ったロロノア屋は楽しそうだった。俺の反応にも面白がっているのかもしれない。わからない男だと思った。確かにアイツはドジで注意力も無ければ男への危機感も薄い。どうしようもなく目が離せないような女だ。ごく自然と関わった人間にそんな感情を抱かせるヤツだ。それを再確認しただけで結局、コイツがサナをどう思っているのかはハッキリとは分からなかった。






「納得いかねぇって顔してるな」
「お前が何を言いたいか理解出来ねぇ……俺だって、分からねぇ」
「そりゃあ、お前が"納得がいってない"のが答えだろ」
「……なッ、」





思わず面食らった俺を見てロロノア屋は耐えようにも耐えきれず、と言った様子で大口を開けて笑った。ニヤニヤと緩んだ口角になんとも言えない怒りに似た感情が湧き上がって絶句する。屁理屈じゃねぇか、と吐き捨てた俺にロロノア屋はそういうところから始まるもんだ、と笑った。俺が盛大に舌打ちをしても、呑気に、ロロノア屋の隣で、寝ているサナに奥歯を噛む。ぶつけようのない感情の腹いせに並々注がれたアルコールを零しながらも胃の中に押し込んだ。




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