好き勝手





一際大きな轟音が鳴り響く。一瞬の鈍い地響きの後、空を支配していた檻が消えていく。アイツは神を……いや、ただの人間を叩き落としたのだ。空気が抜けたように飛んでいく麦わら屋を荒い息を吐きながら此方へと移動させた。





「空を見よ!ドレスローザ!!!消えていくのは"鳥カゴ"か…ドフラミンゴの支配か……!カゴの外に広がる風景は切り刻まれた町か……はたまた……もはや操られることのない自由の地か!」





町に響き渡る実況が少しずつ、その戦いの実感を認識させる





「勝者は……!!!!ル"ゥーーーー〜〜〜!!!シィィィ〜〜〜〜!!!!」




その瞬間爆発するような民衆の歓声が巻き起こり、町は熱気に包まれた。おれは、ふ、と体の力を抜く。……全てが終わった、そう実感した瞬間アドレナリンが切れたように体が重くなった。どこか、夢見心地の自分がいる。俺が生きているうちにこの光景が見れるとは思っていなかった。血だらけの腕に赤黒くなったコート、酷いものだ。それでも俺は、そしてアイツはやり遂げた。


剣闘士の涙で濡れる麦わら屋は穏やかな表情で気を失っていた。呑気なものだ、と思わず呆れて、それと同時に少し俺の口角が上がった。……本当に無茶苦茶な奴だ。



俺にはまだやることがある。体力なんてとっくに尽きていたがコイツらを移動させる必要があった。鬼哭を杖のように地面について立ち上がる。支配は終わりを告げたのだ。










「ローくんの……ッひ、ぐ………っぅ……ば、かぁ…!!!」
「……お、おい、」




ドフラミンゴとの決着から1日。目が覚めた俺は小さな小屋にいた。体は例外なく痛んでいるが全く動けないほどでもない。少し体を起こせば俺と同じように眠る見知った顔が見え、自分が長く眠っていたことを悟った。ふ、と視線を感じ、入り口の方へと目を向けると目を見開いたサナが驚きの表情でバスケットを提げながらこちらを凝視していた。俺もどう反応すべきか分からずただ彼女を見つめ返していると、じわじわと彼女の瞳が濡れて輝き始める。ぽかんと開かれていた口がゆっくりと閉じられ、唇を噛み締め、ついに決壊したように大粒の涙が溢れ始めた。

なんとなく感じていた予感が的中してしまったことに俺は更にどうしたらいいのか分からずその場から動けずにいたが、俺が身構えるより先にバスケットから手を離したサナが思いっきり飛び付いてきたので勢いに耐えられずそのまま床へと倒された。




「ぅうぅ……ろー、くん……っ、ろーくん、よかった、」
「……そんなに泣くことか?」
「だ、ってぇ……!ろーくん、腕も……血も……」
「ッ、分かったから、離れろ!」
「……お前ら何してんだ」




その声の方に顔を向けるとロロノア屋が呆れた顔でこちらを見ていた。何をしているのかなんて俺の方こそ知りたい。何でこんなに泣きつかれなきゃならねぇんだ。それに比べてロロノア屋は呑気にあくびをすると暑苦しい、外行け、と他人事のように腕をヒラヒラと振る。別に好きでやってるわけじゃない。……とはいえ、ぎゅ、と縋り付くように俺の背に腕を回す彼女を引きはがそうとも思えず、ただされるがままになっているとまた扉が開き、今度はニコ屋や鼻屋が入ってくる。そしてまた俺たちの姿を見て妙に楽しそうに笑うのが無性に腹立たしい。




「あら、お邪魔だったかしら」
「トラ男もやっぱ隅に置けねぇなぁ」
「お前ら……!」




そうやって楽しむ前にこいつをどうにかしろ、と視線で訴えると「あなたなりの誠意を見せればいいんじゃないかしら?」とニコニコと笑いかけられる。俺なりの誠意なんてどうやって見せればいいんだ。第一、今回の戦いはある程度の無茶をしなければ勝てなかった。お前に泣かれる筋合いなんてない……そうやって思うことはできてもそれを言葉には出来なかった。未だ泣きついている俺より小さな体を見る。自然と手が触れやすい位置にあった頭へと伸びた。




「ろーくん、無茶ばっかり、してた……」
「……海賊なんだから無茶して当たり前だ」
「でも、命を惜しまないのは違うもん……」
「それは、……悪かった」




ポツリ、と言われたその言葉には少なからず心当たりがあった為、ゆっくりと彼女の髪を大昔に妹にしたように、あやすようにそっと撫でながら一言謝罪をする。俺はここでアイツを倒すために死んでもいいと思っていた。だからこそ仲間はゾウに置いてきていたし、それが本望だとも感じていた。その選択が間違いだとは思わないが、サナに泣かれると多少は罪悪感が湧いた。





「……でも、俺がどうなろうがお前には関係ないだろ」
「あるよ!……私、ローくんのこと好きだよ。だから、無理して欲しくない……」





ぎゅ、と背中に回された腕の力が強くなるのを感じた。コイツの言う"好き"にはひどく純粋な響きが込められていた。眩しいほどに純粋な、俺への好意。きっと嘘ではないし、男女がどうとかそんな枠組みには囚われないものだ。それはコラさんが俺に与えてくれた心にも少し似ている気がした。

出会ってから長いわけでもないこの女には心が乱され続けている。かと思えば安心を感じる時すらも存在する。訳が分からない。でも、嫌ではない。寧ろ、




「……おい、お前ら他所でやれ。トラ男、お前能力で連れていけるだろ」
「なっ、そんなことする訳ねェだろ……!」
「まぁまぁ……ほら、サナもそろそろ離してやれって」
「うー……」
「トラ男くんは無理をするみたいだからサナに見ておいてもらった方がいいかもしれないわね」
「好き勝手言いやがって……!」




浮かんだ言葉をかき消すように舌打ちをする。なんなんだコイツらは……!と睨みつけるが相変わらず笑ったままのニコ屋にめんどくさそうなロロノア屋、申し訳なさそうな顔をしたのは鼻屋だけだ。船長がああならクルーも色濃く扱いづらい奴らしかいない。今俺の腹部に絡みついているコイツも含め、だ。こんな状態の中、悠々自適に眠りにつく麦わら帽子のこの男が恨めしかった。


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