ひとときの安らぎ





策略と陰謀が滲む町、ドレスローザ。約束の時間まではまだ暫くある中、俺と鼻屋、ニコ屋、……そしてサナはシーザーを引き渡す部隊として動き始めていた。俺たちはそれぞれグリーンビットについての聞き込みをしてからこのカフェで落ち合うことを決めており、俺はシーザーを監視するためにもカフェでアイツらを待ち店を訪れた客に話を聞く役割を果たしていた。ニコ屋は言わずもがなだが、鼻屋も口が上手い方であるようだし、サナは人当たりが悪くないだろうから特別な何かが無い限り心配はしなくていいと思ってはいるが……実際、ここは既にドフラミンゴの本拠地。常に気を張っている必要がある。





「お、おい!ロー!」
「……あァ?なんだ、うるせェな」
「ッ五月蝿いとはなんだ!麦わらのあの女!いいのか!?」





煩わしく思いつつとシーザーが見る方に目を向ける。丁度そこには変装した姿のサナが大柄な男に手を引かれ路地裏へと消えていくのが見え、思わず鬼哭を持って立ち上がる。あの、馬鹿……!と意識せず溢れた声に舌打ちをして二人の後を追った。途中、少し冷静になりシーザーを連れてきた方が良かったか、とも考えたがアイツの心臓は俺が持っているので、最悪の事態にはならないだろうと思い直す。それ以上にやけにふわふわしたアイツの身が気になった。……表通りから隔離されたようなその空間の奥に彼女が見えた。壁際に追い詰められている姿に奥歯を噛み、男の背中に声を投げた。




「…………オイ、」
「あ?」
「そいつは俺の連れだ、返してもらう」
「……!ろ、」




彼女が俺の名前を呼ぶ前に"room"を発動させ、近くに落ちていた木箱と彼女の位置を入れ替える。驚いた表情の男が逃げる前に鬼哭で切り刻み動けないようにすれば、恐怖で固まった男は声も出ないらしく、呆気にとられたように口を開いていた。抵抗の意思すらも刈り取れたと分かると鬼哭を鞘に戻して彼女に振り返った。サナは驚いていたがすぐにバラされた男へと近づくと首の裏を針で軽く刺激し、それに男はパタリ、と気を失った。





「循環でも悪くしたのか?」
「うん、私が見つけたそういうツボ……じゃなくて、ローくん、迷惑かけてごめんね、ありがとう」
「……全くだな、怪我は?」





サナは俺の問いかけにゆっくり首を横に振る。それに少し肩の力を抜いてから何をするつもりだったのかと聞くと彼女は情報を知っていると言われたので怪しかったが一応付いて行ったこと、何かされそうだった時は忍ばせた針で逃げようとしていたことを俺に説明した。理屈は分かったが、そこまで危ない橋を渡ってまで情報を仕入れろとは言っていない、と告げれば申し訳なさそうにもう一度ごめんね、と苦く笑った。




……とは言え、俺は無意識に彼女を見くびっていたのかもしれない。先ほどの慣れた動きを見る限りおそらく、俺がこうして助けに来なくても彼女はこの場を脱することが出来たはずだ。別に、軽視していたつもりはない。それでも、どういう訳か気になってしまう、自然と足が動いてしまう自分がいることは自覚していた。

俺よりもずっと小さくて何処か小動物のような雰囲気を醸し出すサナは自然と護らなければいけないもの、として認識していた。これはきっと俺だけじゃなくて麦わらの一味も似たように感じているのだと思う。そう思わせるものが彼女にはあった。それに……ラミが生きていたら今ごろサナと同じくらいだったかもしれない、そう思うと尚更俺には彼女を放って置くことができなかった。






「ならいい……シーザーを置いてきた。カフェに戻るぞ」
「あ、ローくん!」






彼女の隣を通り過ぎるように通りへと出ようとした俺を止めるように腕が引かれる。振り返ると彼女は少し真剣な顔をしながら俺の口元へと手をのばす。暫し吟味するようにこちらを見つめた後、納得したように深く頷いた。




「これで髭も良し!」
「……あァ、悪い」
「ううん。……多分通りに出るとあんまり名前も呼べないから」




にへ、と効果音が出そうなくらいに破顔したサナを思わず見つめる。それから、ゆっくりと彼女の頭に手を伸ばし、数回、軽く触れた。俺の行動に驚いたように目を丸くするサナに少し口元が緩んだ。……不思議なもので、俺の心境は晴れやかだった。今から起こるであろう戦いを前にして、俺の一世一代の賭けになるかもしれないこのドレスローザの地で、こんなにも穏やかな感情を得ることができるなんて思わなかった。最後に一瞬でもそうなれて良かった、心から思う。これからはきっとこうは居られないだろう。ドフラミンゴと対峙する前の息抜きは本当に、これで終いだ。




「……いくぞ、もうあの二人も戻っている筈だ」
「へ?……あ、う、うん!」




ぼんやりと惚けていた彼女に声をかけて改めて通りへと歩き始める。見立て通りシーザーの隣にはニコ屋と鼻屋が座っていた。ひとまずの目的はグリーンビット。おもちゃが徘徊し、王が辞めたというのに平穏すぎるこの町の異様な空気感を感じつつ身を引き締める。約束の時間まで既に2時間を切っていた。



……路地裏から帰ってきた俺たちを見て妙に楽しそうにしていた二人は気に入らなかったが。






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