03


この際何方でも良い、と思ってしまった。慈しんだ女の欠片がそこに在るならば、真実など。
幸運なのか不運なのか、人間を超えたこのDIOでさえ最早判断しかねるという事実はこの際認めるしかあるまい。目の前でわたしに縋り付かんとしている女にかつて慈しんだ面影を垣間見てしまった以上、受け入れるほかに選択肢など無いのだから。



わたしの気紛れからなまえとベッドを共にしてから日も浅かったあの日、太陽が去ったのを感知してわたしはなまえよりも先に目を覚ましていた。収縮した身体を鳴らしながら立ち上がると、夢でも見ているのか、なまえが忙しなく顔を揺らしながら何処か悲しそうな顔を見せていた。名前を呼ぶが反応が無かった。わたしらしくないと言ってしまえばそれまでだが、なまえを気にかけて再びベッドに腰掛け投げ出された掌を握ってやると、細い指先がそれを逃がしたくないとでも言うように強く握り締めた。暫くそのままで居たのだが一向に目を覚ます気配が無いので頬を包んでもう一度名前を呼んだ瞬間、目を閉じたままなまえがしゃくりあげ始めたのを見て、やはり悪い夢を見ているのかとわたしは思った。背中に腕を回して上体を起こしてやる。まるで赤ん坊でもあやしているようだったが、なまえが背中に腕を回して縋り付いてきたのだから問題は無いのだろう。泣くな、と、そのようなことをわたしが言ったとき、ジョウタロウ、となまえが嗚咽の間から漏らしたのを聞いた。何度も、何度も。恐らくは日本で親しかった男の名前を何度も呼びながらなまえはわたしの腕の中で、未だ夢から覚めることなく至極無意味とも取れる涙を止めどなく流していた。唖々この女はわたしではない他の男を見ているのだと、あのときはっきりと思い知ったのだ。半ば放心しながら絡められた腕を解くことしか出来なかったのだ、スタンドも見出していないたかが小娘ごときにこのDIOが。何も知らないなまえに何食わぬ顔でわたしと言う存在を問いかけずには居られなかったのだ、この、DIOが。くだらない、他人にどう思われようがわたしが気に病むはずがないのにも関わらず。
なまえは飄々と答えて見せた、わたしと言う存在の認識を、百年前と寸分違わぬ言葉で、揺るぎ無い思想で。わたしの心は揺れた、否定はするまい、柄にもなく一縷の期待にわたしはしがみついていた。居るはずの無い女を、在るはずの無い面影を見出してしまったのだから。

愛情を求めるあまりにわたしではない他の男を瞼の裏に描きながらこのDIOに縋り付かんとするなまえを、受け入れない理由などどこにもなかったのだ。なまえが求めているのがわたしではなくある男を垣間見るための手段であるとしても、何方でも良い、と思ってしまった。かつてわたしが慈しんだ女の欠片がそこに在るならば、真実など取るに足らないことだと。