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執事であるわたしの目から見ても、この館がお世辞でも綺麗とは言えないことは明らかである。はっきりさせておきたいことは、至る所に被った白い埃はわたしの職務怠慢から生じたものではないということなのだ。それもこれもDIO様の一存である。兎にも角にも見目麗しいものを好むはずの我が主は、どういう訳か一点のくすみもないこの館を酷く嫌うらしいのだ。おかげで手に取ればどれほどの好奇心を擽られようかと考えられる書物が壁一面を覆い尽くすあの荘厳な図書室が、最早入ることも躊躇われるほどの蜘蛛の巣と埃に塗れてしまっているのだ。本来ならば私にとってこれは許されざる事態なのだが、DIO様の御命令ならば仕方がないというものである。しかしながら僅かばかりの反抗として、私は、せめてDIO様の目に付かないところだけは美しく保とうと日々画策していたのだ。これくらいは許されてもいいはずだ。なにせ、この反抗のおかげで今夜初めて人を迎え入れる来客用の寝室は清潔に保たれていたわけだから。
寝台にサイドテーブルにデスク、窓にかけられたカーテン、そしてバスルーム。すべて指で撫でながらの最終確認も済み、どこをとっても埃もくすみも見当たらない。素晴らしい、非常に、結構である。日本人のシニアハイだと言うから恐らくは小柄であろう、多少サイズの融通が効くワンピースがあったほうが良いか。ああ、こういった事態にあたっては私の趣味も捨てたものではない、恐れ多い気もするが衣類が届くまでは私が仕立てたものをお召しになっていただこう。生地は上等のものを使っているしデザインも悪くないと自負しているのだ、それに今までずっと身につけられることを待っていたものたちだ、折角の機会であるし罰は当たらないだろう。そろそろ西日も弱くなってきた、時計を見遣ると五時を回ったところであった。もうじきお着きになるはずだ。……一体、みょうじなまえとはどんな人物なのだろうか。DIO様とは面識があるのだろうか?連れてこさせる、と言ったからには、誘拐__拉致ともいう__になるのだろうが。スタンド使いかどうかは分からないが、それ程までに価値がある娘なのか。……あの、人を人とも思わない吸血鬼であるDIO様にとって。きっとそうなのだろう、彼にとっては他に代え難い揺るぎない価値があるのだろう。

衣装部屋にすべてを運び入れて寝室を出ようとしたとき、扉の向こうからヴァニラの声が聞こえた。私の名前を呼んでいるように聞こえたがどこか声を顰めるような調子であった。些か凝り固まった肩をほぐしながら扉を開けると、ヴァニラが気を失った女を大層大切そうに抱えて立っていた。