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突然の事態に驚いたのは、少なからず私だけではないようだった。主の寝室へと呼び出された者は私の他に三名、エンヤ婆にヴァニラ、もう一人の虹村と呼ばれる日本人と私は直接的な関わりがなかったためこの顔ぶれが何を意味するのか推測することもできなかったのだ。
グレーのシャツに暗い色のスラックスを履いたその男はこれといって特徴は無く、"普通"であることを盲信する日本人の民族性をよく表している、と思った。彼は慣れないこの館に些か居心地が悪い思いをしているようであった。一応礼儀として(そしてこの館の執事として)私が椅子を勧めると、一瞬身構えるような仕草のあと体を左右に落ち着き無く揺らしながら彼はそれに腰を下ろした。見回すとエンヤ婆は相変わらずなんでもお見通しと言った顔で手にした杖を持て余していたが、ヴァニラは突然の召集に何処か落ち着かない風であった。病的なまでにDIO様を崇拝するこの男は、それ故に予測し得ない事態が起こることに対して酷く臆病だ。お役に立ちたい気持ちは分かるが、DIO様に尽くすあまり自らを見失っているのだ。種の保存を図るために群れで連れだって崖から飛び降りる鼠がいるというが__私はヴァニラとその鼠に似通ったものを感じ取ってしまう。恍惚とした表情で主に傅くこの男が、私はあまり好きではなかった。
手にしたハードカバーを閉じて、DIO様が言葉を発したのは丁度私がそこまで思い至った時であった。微かに生臭い血の匂いを漂わせながら、相も変わらず恐ろしいまでに美しい我が主は言った。

「今夜日本人の娘をそこの虹村に連れてこさせる。エンヤは知っていると思うが__」

「その娘はわたしにとって極めて重要な意味を持つのだ__
呉々も丁重な扱いを心掛けろ。
テレンス、部屋を用意しておけ。下の階の寝室で良い」

主は白昼こうして口を開くことに気怠い様子を隠そうともしていなかった。私が頷くと、呆気なくその集会は終わりを告げた。主は早く眠りにつきたいようだった。私がふと虹村を目で探すと、どういう訳かあの頼りない日本人は扉を開けることもなく仄暗い寝室から姿を消していた。恐らくスタンドを使ったのだろう、瞬間移動なのか姿を消すことができるのか、さして私は好奇心を擽られなかったので急いで客人のための寝室を整えるため足を運んだ。私の好奇心は、海の底で百年もの時を経てきた吸血鬼である我が主がそれ程迄に必要とするその娘についての疑問に縛られていたのである。