東西南北 | ナノ



東西南北


「…誰だ?」

冴奈は突然知らない男性に話しかけられた。
男性はよれよれの水色の着物を着ている。ワイシャツを着て、書生の風貌だ。ニコニコしている。

「貴女がここから飛び降りちゃうのかな、と思いまして。水をかけられただけでも、冷たいのに…
 すみません、勝手に口出したりなんかして」
「飛び降りたりなんかするもんか。私にはやることがあるんだ」

――やる、こと。

「そうですか。それならいいんですけど。
 失礼ついでに頼みごとしてもいいですか?」
「は?」

――何だ、こいつ。掴みどころがない。

「神谷道場の場所を教えてほしいんですけど…知ってますか?」
「神谷道場?……知ってるが」
「わあ!よかったぁ!!是非教えて下さい!!」

悩み、憂愁を漂わせる冴奈に態々声をかけるなんて、空気が読めないのだろうか。

「あ、僕は瀬田宗次郎って言います。よろしくお願いします、…えっと」
「冴奈だ。緋村冴奈、こちらこそよろしく」
「え…ひむ、ら?………緋村さんのお嫁さんですか?」
「………独身だ」
「…じゃあ、貴女は緋村さん。…緋村剣心さんの何なんですか?」
「お前こそ剣心の何だ」
「!!…僕は何でしょうね。緋村さんに救われた1人、かな」
「…!!」

瀬田は笑いながら続ける。

「それで、貴女は?」
「私は剣心の妹だ」
「妹さんがいらしたんですか。僕が緋村さんのことを調べた時はそんなこと出てこなかったなぁ…」
「調べた?」

――こいつはどこに所属していて、剣心のことを調べなくてはならない状況にいたんだ?

「それじゃあ冴奈さんも飛天御剣流が使えるんですね。見たところ、その背中のは真剣ですよね。…逆刃刀、ですか?」
「これは普通に刃がついてるぞ。剣心がどこから逆刃刀を持ってきたのかは知らないが、」

――剣心……逆刃刀。

「そうなんですか。確か新井赤空の作って言ってたっけ、由美さんが…」
「新井赤空…その刀匠はどこで活動してるんだ?」
「あんまり僕は刀匠とかに興味なくて…すみません、解りません」
「そうか、ありがとう」

――剣心と同じように逆刃刀を持てば、人を斬らなくて済む。

「あ、もしかして、逆刃刀が欲しいって思ってます?」
「は?」

――何故バレた。

「僕もそう思ったことがあるんです。結局僕には刀がないと駄目なんだなって。でもそれじゃああの人と同じになって、僕の答えにはなりません。
 …あ、ごめんなさい。初対面なのに、こんな話して」
「いや、構わない」

――そうか、そうだよな。

いつまでも剣心の背中を見ているだけでは駄目だ。
冴奈にしかできないことを探さねばならない。今、それが月岡津南を守ることだと思っている。
でもそれによって人を傷つけたくない。傷つけてはならない。決して命をただ奪うために剣術を習ってきたのではないのだ。
比古から真剣を貰った。きっとそれは、冴奈に命の大切さを説くため。不器用な師匠な不器用な愛情、不器用な親心なのだ。

家出1ヵ月。
剣心よりは早いかもしれないが、真理を思い知るまで時間がかかってしまった。

「ありがとう、いい話を聞かせてもらった」
「お礼なんて!変な話をしてすみません」
「神谷道場に神谷道場へ行きたいんだったな。案内しよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」

冴奈は瀬田を案内するため、神谷道場へ足を向けた。


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管理人から!

世界って思ったより狭い。

2012.6.15.


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