Episode:2『それが距離を生むんだね』

教室のドアを開けた。
すると、ドアの側の席に座っていた男子生徒がこちらを向く。スライドドア特有の滑車が回る音に、つい反応したようだ。
そして、男子生徒は入ってきた人物が九であることを確認すると、あからさまに顔を背けた。


「や、おはよう!隣に座るけどいいよね」

「…はぁ?」


九はそんな男子生徒に対して、あたかも仲の良い友人に対するような気安さで声をかけた。
男子生徒はさらに顔を歪める。しかし九はうっすらと微笑みながら、宣言通りの席についた。

集合時間ぎりきりにやって来たこともあって、教室の中は卒業生でごった返している。
彼らの顔はこれからやって来るはずの未来に瞳を輝かせ、自分の将来について思い思いに語っているようだった。
九は微かな疎外感を感じなから、そんな彼らを見渡す。絶望すら希望だと言い張るような活気の中で、自分だけが泥沼に沈んでいる。そんな錯覚すら覚える。

本当は九だって、バカ丸出しの子供でありたかった。一寸先が奈落の底でも、未来は常に輝かしく光に満ちていると、底に落ちるその瞬間まで信じていたかった。


「おれも子供になりたいなぁ…」


ため息と共に吐き出された言葉は、隣の少年の耳に届いた後、空気の中に霧散していった。


「ねぇ、君はおれがかわいそうだと思う?」

「はぁ?知らねーよ二度と話しかけんな」


九が嫌そうな顔をする少年に問いかけると、彼はとんでもない悪態をつき、席を離れていった。
話しかけられた事がいやだったのか、九の醸し出す泥沼のような雰囲気がいやだったのか、それは少年にしか分からない。しかし九は、きっとそのどちらでもないと感じていた。


「奈良シカマルだっけ?やな感じだなぁ。邪魔になりそう…」


九の呟きは、今度こそ誰の耳にも届かなかった。

|

BACK
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -