『前略。ちょっとカッコイイモノマネしながら戦ってみてよwwwできねーなら死ね』

ドンキホーテファミリーに入団して半月ほど経ったある日、こんな内容のルーズリーフが窓から入って来た。
草生えてるし、要件しか書かれていないし、意味不明。
前略し過ぎである。
そして最後の文から香るガチ臭な。
神様って皆こんなんなの?祟り神としか思えないんだけど。
湯屋でさっぱりして「よきかな・・・よきかな・・・」とか言ってろよ。

「ヤマブキ氏ィ。こんなん来たわ。多分ヤマブキ氏宛」

タイミング良く部屋に帰ってきたヤマブキ氏にルーズリーフを差し出した。

ヤマブキ氏は、すっかりドンキホーテファミリーの一員と化していた。
若様はヤマブキ氏をかなり気に入ってるらしく、仕事だランチだディナーだと理由をつけては連れまわしている。
これは完全に懐柔しにかかってますわ。危うくロリコン疑惑が持ち上がっていますよ、私の中で。

え?私は何してたかって?
コラさんに殺されかけて今も療養中っすわ。松葉杖なしで歩けるくらい回復してきたけど、まだ包帯は取れない。
私の体の強度をワンピ基準で考えないでほしい。たとえ銃弾一発でも当たりどころによっては死ぬわ。
船から投げ落とされて港の石畳に全身を強打した時はマジ死んだと思った。ヤマブキ氏は爆笑してた。お前は俺を怒らせたけど、仕返しも何もできない。
そんな役立たずのタダ飯ぐらいな私がここで生きていけてるのは、私が死んだら自害するって言ってくれたヤマブキ氏のおかげだ。
自害っつーか、神様による強制終了的なやつなんですけどね。
ゲームオーバーって、つまりどういうことだってばよ。と思わないでもないが、なんだかとっても不安になる響きだ。
だからこれからもヤマブキ氏は全力で護ってくれるだろう。命だけは、ここ重要な。

というか、ヤマブキ氏はつい5分ほど前に、襲撃して来た海賊船に出張しに出かけて行ったのだが、そっちはどうなったのだろうか。

「敵船なら吹き飛ばしてきたよ」

ルーズリーフを受け取りつつ、ナチュラルに心を読んでくるこの子こわい・・・。
そして吹き飛ばすとか・・・すごく、こわいです。

最近のヤマブキ氏は、武器をカトラリーからバールにシフトさせている。
フォークで眼を抉るという暴挙に出なくなったので大変良いことだと思う。
そして何でバールなの?と思ったあなたは間違っている。
何故なら、ヤマブキ氏が握ったバールはただのバールに非ず。
一振りでとんでも無い衝撃波が出るエクスカリバールである。
そりゃ敵船なんか5分で沈むわ。つーか、逆に5分も必要ですか?あ、若様とランチに行く話をしてたんですね。その準備のために帰ってきたと。
誘われたら遠慮なく美味しいものをご馳走になるヤマブキ氏ェ・・・。

「言っとくけど、バールの攻撃と見せかけた忍術だからね」
「マジかよ騙されたわ。そしてやはり心読まれてる!」

意外ッ!それは忍術!!
いや、意外でも何でもねーや。この人もともと忍者だった。

「で、何コレ?」

ヤマブキ氏は嫌そうな顔でルーズリーフを丸め床に捨てた。

「まさかとは思うけど、俺にやれっていってるの?モノマネを?」
「しかもただのモノマネじゃないですぜ!カッコイイ感じのモノマネですぜ!」
「君がやりなよ」
「死亡フラグキターーー!特攻隊のモノマネくらいしか出来ないですけど」
「敵船に突っ込むつもりか。モノマネじゃなくてガチじゃん」

ヤマブキ氏は呆れかえって深い溜息をついた。
そんな反応には涙が出ちゃう。だって現代っ子だもん。Sじゃないけど打たれ弱いの。ガラスの剣なの。
そしてヤマブキ氏は着ていたラフな服を着替えて、かっちりスーツで出て行った。
お高いところでランチかぁ。いいなぁ・・・と思ったけど若様とお食事なんてただの苦行だよね。威圧感はんぱねーもん、誘われても全力でパスだわ。
そしてあのグラサンがドレスコードに引っかからない理由を誰か教えてくれ。
私はグラサンが本体の可能性も考慮してる。



翌日、島におりて木箱を船に運搬する作業に混ざっていると、町外れでいつの間にか海兵に囲まれていた。
歩けるようになったので荷物運びくらいなら手伝えると、善意を見せた結果がこれである!・・・こうして引きこもりが誕生するのね。
思うんだけど、ここ最近戦闘が多すぎね?北の海ってそんなに治安悪いの?
あらやだ、東の海に移り住みたいわ。
しかしこの場合、運が悪いのは海兵たちの方だ。今こちらには最終兵器ヤマブキ氏がいる。皆殺しの刑に合うのは確実だ。
海兵逃げて超逃げて。

「あ、そうだ。ヤマブキ氏ィ!!これは任務を遂行するチャンスでは!?ヤマブキ氏がどんなモノマネするのか・・・・私、気になります!!」
「・・・・・・」

ヤマブキ氏はウザそうに私を一瞥する。そんな顔をしたって、モノマネからは逃れられないで。
できねーなら死ね。ルーズリーフから抜粋。・・・我々の命の重さって、ちと軽すぎやしませんか?

私は手に持っていた木箱を置いてその上に座ることにした。
木箱には何が入っているのか分からないが、軽くてカサカサ音がする。・・・吸っちゃいけない葉っぱ系かな?煙草の原料と信じよう。

ファミリーの下っ端さんたちがザワザワする中で、私は完璧に観客モードに転じていた。だって戦えないし、つーかヤマブキ氏いるし。皆も観客モードになっていいのよ?ヤマブキ氏が私以外も護ってくれる・・・かは分からんが、敵は残らず一掃してくれるだろう。
海軍が敵って、一般市民の感覚からいうと複雑な気持ちだね。

ヤマブキ氏は私を背に庇うように海兵と対峙する。
幼くか細い背中だけど、こんなに頼もしい背中は世界中探したってないだろう。
ここから一歩も通さない、理屈も法律も通さないって背中で語っている気がする。やだかっこいい!
でもあくまで気がするだけだから。本人は微塵も思ってないだろうよ。

ヤマブキ氏は軽やかに地面を蹴り、海兵たちとの距離を一気に縮めていた。速すぎて一瞬キンクリが発動しているのかと思うことがある。過程をすっ飛ばして結果だけが残るあれな。もしくは時よ止まれ系のスタンドな。
それにしても、振りかざしたのがスプーンじゃなけりゃ様になってるのにヤマブキ氏ってばお茶目さん。って、え?スプーン?
そして前線で日本刀を構えている海兵の顔面を鷲掴みにし、スプーンで・・・・

「ぎゃああああああスプーンが鼻に!!鼻に?え、鼻から?えええあああそんな鼻からおぎゃああああああ!!」

鼻からピーーがピーーでピーー・・・だと? 自主規制だ!全力で自主規制するぞ!何が起こったのかは絶対に語るまい。これは墓まで持っていく。
ナイフ、フォークと続いてついにスプーンまで戦場デビューしてしまった。
スプーンであんな冒涜的な行いをするなんて!もう箸以外使わない!日本人の心を大切にすると今誓った。
海兵はヤマブキ氏の華麗なる奇行にドン引きしていた。
気持ちはわかる。あんな事されたらその日人類は思い出した的な顔でヤマブキ氏を見ちゃうよな。
積極的にトラウマを植え付けに行くヤマブキ氏ェ・・・・。

ヤマブキ氏は色々ぐちゃぐちゃになってしまった海兵をボロ雑巾のように捨てると、日本刀を奪って構えた。
あの海兵さんのご冥福を全力でお祈り致します!
それにしても、ヤマブキ氏がまともな武器を握っている姿を初めて見たな。
日本刀と少女・・・。何となく背徳的でイイ!

「震えてるね。俺が戦い方を教えてあげようか」

ヤマブキ氏は海兵の前で不敵に笑った。こんな風に相手を挑発するのは珍しい。
ヤマブキ氏って、淡々と人を千切っていくタイプだし。え?なにそれ怖い。
海兵は何言ってんだコイツという顔をしていたが、ヤマブキ氏は気にすることなく続けた。

「・・・圧倒的に力の差がある奴を前にした時に、その実力差を覆すには数に頼るのが一番だ」

言いながら、ヤマブキ氏は腰を落とす。本格的に臨戦態勢に入ったようだ。
海兵の誰かがゴクリと生唾を飲み込んだのが分かった。

「呼吸を合わせろ。身体ともに気をねり、最も充実した瞬間・・・」

ヤマブキ氏があまりにも真摯に言うものだから、いつの間にか海兵もヤマブキ氏の言葉に従って武器を構えている。

「一斉に斬りかかれ!!」

それを合図に、海兵は雄叫びをあげながら飛びかかる。
これ完全にヤマブキ氏のペースなんですが、海兵としていいの?それでいいの?
あと銃持ってる奴は撃てよ、斬りかかるなよ。銃じゃ斬れないでしょ。みんな雰囲気に飲まれないで、冷静になって。
ヤマブキ氏はニヤリと笑う。

「・・・そしてェ!!」

ヤマブキ氏が刀で向かってくる海兵を斬り倒す。勝負は一瞬の稲光と申しますように、本当に一瞬で決着はついた。

「・・・・死んじまいなァ」

立っているのは刀を持ったヤマブキ氏だけ。
ヤマブキ氏は死体を見ることもなく、不敵な笑みで言い放った。つーか、それって・・・。

「そうg「「「ヤマブキ様ああああああ!!!」」」

私が叫ぶよりも早く、下っ端さんたちが歓声を上げた。
気持ちは分からんでもない。今のはカッコよかった。なんかカッコイイ感じのモノマネだった。
ちゃっかり任務クリアしてるヤマブキ氏のポテンシャルぱねぇ。
ところで真選組動乱編の映画化はまだですか?

下っ端さんたちはワラワラとヤマブキ氏を囲んで「さすがです!」だの「素敵です!」だの「抱いて!」だの騒いでいる。ちょっと待て、最後の誰だ。
ヤマブキ氏は蝿に集られたかのように顔をしかめる。
そこへ騒ぎを聞きつけた若様がモフモフを靡かせてやって来た。
空からのご登場である。あの雲に糸をかけるってどういう原理なの?雲って水蒸気じゃなかったの?
空島に、行ってみたいな!
海兵がズタズタになっているのを見て全てを察した若様は、機嫌よくヤマブキ氏の頭を撫で始めた。
・・・・ロリコ、いや何でもない!
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