嵐が去った後の静けさでコンパートメント内は満たされていた。
何か凄いものに出会った。皆そんな顔で黙っていた。

外はすっかり日もくれて、窓には自分の顔しか映らない。

「制服に着替えなければ」

私は思い出したように呟いた。

「もうすぐ着くの?」

ハリーが、外の景色を覗き込むように、窓に顔を近づけて言った。

「うん、そろそろ着くんじゃないかな?流石に深夜になるまで着かないってことはないよ。夜行列車じゃないんだし」

ロンはガサゴソと荷物を漁り、早速制服を探し当てた。

ホグワーツの制服のデザインは、半世紀前と何も変わらなかった。
そもそも、魔法界というものが変化に乏しい世界なのだ。
めまぐるしいマグルの世界とは対照的だ。

「どこの寮になるかな・・・心配になってきた」

ローブに身を包んだロンが、弱々しい声を出した。
マルフォイ家が皆決まってスリザリンに入寮するように、ウィーズリー家は代々グリフィンドールに入ると決まっている。
そう、決まっているのだ。
組分け帽子は質を見抜く。質とは、生まれ持った生得的資質と、環境によって後天的に付加された性格に分けられる。
組分け帽子は、どちらかといえば後天的な付加物を好む傾向にあった。
何故なら、人生とは選択であり、運命とはその結果であるからだ。
生まれついての悪人でも、心から望めば聖職者になる道がある。生まれに囚われず、なりたいものになる。そんな思いを込めて創設者たちはホグワーツを創ったのかもしれない。

つまり、よっぽどの例外でもない限り、ロンはグリフィンドールだ。
ロン自身がそれを強く望んでいるのだから、組分け帽子はその意を組むだろう。


問題なのは私だ。


「寮って、さっきの子もグリフィンドールが良いって言ってたけど、良し悪しがあるものなの?」

ハリーが見慣れぬであろうローブを物珍しそうに眺めてから、ふと思いついたように首を傾げた。

「そりゃああるさ!勇敢なグリフィンドールに卑劣なスリザリン。劣等生が多いハッフルパフに頭のいいレイブンクロー。性格の良い寮と悪い寮があったら、性格の良い方に入りたいだろ?」

ロンは卑劣なスリザリンをやたらと強調した。
ハリーはまたも首を傾げる。

「寮ってランダムに組み分けられるんじゃないの?」

帽子による組分けは常識だと思っていたが、そうでないことを今思い出した。これではマグル生まれの者には分からないことが多く、混乱するだろう。

「いいや、それぞれあった寮を選んでもらうのさ」

「選んで・・・?」

私の言葉に、ハリーは不安げな視線を寄越した。

「そう不安がることはないさ。選ばれない、ということはあり得ないから・・・」









《困ったぞ〜、非常に困った!!》

私の頭の上の帽子は、しわがれた老人のような声でブツブツと呟いている。

《ウィーズリー家は皆グリフィンドールと決まっているが、これはこれはどうしたものか・・・困ったぞ〜!!》

もう鬱陶しくて仕方が無い。
正直2度目の組分けは、どこの寮になっても構わないと思っている。
私ほどのスペックを持つ人間であれば、どんな環境だろうと上手く立ち回って生きていけるのだ。
強いて言うなら家族内で角が立たないグリフィンドールが好ましい。
しかしこの組分け帽子は、私をグリフィンドールには入れたくないらしい。

「もう何処でもいい」

投げやりに呟いた。
長い時間を要している組分けに、黙って見ていた生徒たちがざわめき始めている。
あいつ選ばれないんじゃねーの?という野次が聞こえる。そんな事あるわけないが、そういう野次はやめてくんない?不安になるだろ!

「本当に何処でもいいから決めておくれ。見世物にされいるようで居心地が悪いし、頭の上で騒がれると迷惑だ」

悩みすぎて体をくねらせる帽子に言い放つ。ピタリと動きを止めた組分けは帽子は、ふむと一言漏らした。

《ならばここが良い、ーーースリザリン!!》

場が一瞬ざわめきを止めた。
そして悲鳴が上がる。勿論グリフィンドールの席からだ。

「オーーノーーー!!」

「バカーーー!!アゼルのバカーーー!!」

「な、何かの間違いだ!そうでしょ校長ーーー!!?」

「もう一回帽子をかぶるんだアゼル!!」

上からロン、フレッド、ジョージ、パーシーの声だ。・・・恥ずかしい。
厳格なマクゴナガル教授が彼らを窘めた。
私は何食わぬ顔でスリザリンの席を目指す。
スリザリン生のいるテーブルは微妙な空気だ。騒ぐ兄弟たちの手前、歓迎していいのかどうなのかわからないといった顔をしている。

「まあ、なんだ。宜しく頼むよ、ドラコ」

とりあえず私は、顔色の悪いドラコの肩をポンと叩いて笑った。
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