カモメと思いきや、鳴き声を聞くにあれはウミネコだ。
厳ついクルーに後ろ手を拘束されたドッピオは、ふと晴天を見上げながらそんなことを思った。
事の発端は、香港の港で出会った見知らぬ少女に唆され、ヨーロッパ行きだという船に勝手に乗り込んだことにあった。
しかし、鈍臭いところがあるドッピオとただの家出少女がタッグを組んだところで、船を隅々まで熟知しているクルーの目を誤魔化せるわけもなく、出港後瞬く間に見つかり、悲しいくらいあっという間に捕まった。
随分と短い密航の旅だったと、ドッピオは密かにため息をつく。
ドッピオ達を拘束するクルーは一人だったが、その丸太のような腕の拘束から逃れる術はなく、引きずられながら甲板に連れ出された。
「おい、乗客は乗せない約束だぞ」
かんかん照りの甲板に出ると、ドッピオは突き飛ばされて前のめりに転がされた。
そこへ背の高い老人がやって来て、厳しい顔でクルーを睨めつける。
「いえ!違うんですよ!こいつらは密航者です!」
クルーはすかさず弁解した。
「たまにいるんですよ!こういうしょーもない連中が!」
そう吐き捨てて、少女の頬をきつく抓る。
長い髪をキャスケットに隠して少年のような格好をしている少女は、男と間違われているようだ。
「許しておくれよ〜、シンガポールにいる父ちゃんに会いたいだけなんだよ〜。どんな仕事でもするからさ、こき使っておくれよ〜」
「ダメだ」
少女は媚びへつらうような声で頼み込むが、クルーは取りつく島もない。
「んだよ!このボンクラがぁ〜〜ッ」
少女はいまだに抓ってくる手に噛み付いた。クルーはぎゃッと短い悲鳴を上げて少女の拘束を解く。
晴れて自由の身になった少女は、タッと駆け出してそのまま真っ青な海に身を投げた。
一連の流れを眺めていたドッピオは唖然としていた。
少女の行動力にも驚きだが、それ以上に驚いたのは、少女のシンガポールという言葉だった。
「シンガポールって・・・ヨーロッパだった、かな?」
ヨーロッパ行きの船と聞いて密航を決意したドッピオだったが、船の向かう先はシンガポール。東南アジアだった。
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