ヒソヒソヒソ。
今日も女中たちに噂される。



太助は箒で庭はきをさせられていた。
使用人たちが住むあばら屋の前の小さな庭、じめじめしていてみすぼらしくて隅っこには虫がわいているようなふざけた庭。
太助がこんな庭の掃除をさせられると知った親族たちは、どんな顔をするだろうか。

太助は貴族の子供だ。
本来なら使用人たちの住むあばら屋をその目で見ることもなく生涯を終えるはずの身分だ。
それがなぜ、こんなところでこんなことをさせられているのか。
それは有り体に言えば、太助がとんでもないヘマをやらかしたからだ。
そのせいで、太助は優雅で無秩序でこの上なく楽しい貴族生活を失ったのだ。

「世の中辛いことが多すぎるね・・・」

太助は誰にも聞こえない声で、胸の内をポツリと零した。
太助の身に降りかかった不幸を思うと、情けないやら惨めたらしいやらで、唇から乾いた笑いすら漏れる。
矜持をズタズタにされて、このあばら屋に放り込まれたあの日を、太助は生涯恨み続けただろう。

「太助君!」
「・・・ヒサネ?」

鈴を転がしたような声というものを、太助は彼女に会うまで聞いたことがなかった。
呼ばれた方に体を向けると、身なりの良い少女がカゴいっぱいのブドウを抱えて、こちらへ向けて手を振っていた。

彼女はヒサネ。
姫君の御付きの一人だ。
彼女も貴族の娘であり、世間勉強のために侍女をやっている。本来ならこんな荒屋の側まで来るような身分ではない。

「どうしたんだよヒサネ。ここには来るなって言っただろ?」
「美味しいブドウをもらったからお裾分けしに来たの!日の当たるところで一緒に食べよう?」

太助が側によると満面の笑みを浮かべたヒサネは、カゴのブドウを太助の胸に押し付けた。

「俺まだ仕事があるんだけど・・・」

太助は困ったように箒を見た。
するとヒサネは笑顔から一転、眉と目尻を吊り上げた形相に変わる。

「なによぅ、太助君は私よりも仕事を取るっていうの?私、太助君が喜ぶと思って早足でここまで来たのに!何回も転びそうになったんだからね!」
「いやでも、仕事しないと怒られるし・・・」
「やだよ!一緒に食べようよ!食べてくれなきゃもう口きかないんだから!!」

ヒサネは貴族の娘らしく、我儘な気質であった。
こうやって太助を困らせるのも今日が始めてではない。そして殆どは太助が折れていた。
太助が一言「わかったよ」と言えば、ヒサネはたちまち笑顔に戻る。
その笑顔がキラキラと輝いて見えるから、太助は彼女の我儘をつい許してしまうのだった。

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