▼ 獅子寮コンビが揃いました。



 ハリーと握手を交わした後、トムは再び読書に勤しむことにした。頭をかきむしりたい衝動を押さえきったトムの努力を、誰か誉めてやってもいいだろう。

 トムの斜め向かいにはくしゃくしゃの髪と丸眼鏡が特徴的な少年が座っている。ついでに額には稲妻型の傷跡が見え隠れしている。
 言わずもがな、帝王の分霊箱こと生き残った男の子だ。

 トムはリドル・マールヴェルトと名乗り気さくに手を伸ばしたが、ハリーの自己紹介で気分はガクンと下がった。
 トムの希望としては、目の前の少年には「やぁ、僕マイク。ヨロシクネ☆」と言ってもらいたかった。いや、この際「僕ムハンマド」でも「僕ダミアン」でも「僕は新世界の神になる!」でも構わない。とにかく「ハリー・ポッター」でなければ何でもよかった。

 ハリーの登場はこれから主人公ズのスルー法を考える予定だったトムにとって、完全に予想外だった。
 列車内でうっかり出くわさないために予定時刻より小一時間も早く来て、このコンパートメントに引きこもっていたのに、その努力は全く報われなかった。これもダンブルドアの陰謀だろうか。

 因みに、『リドル・マールヴェルト』はダンブルドアがトムに与えた偽名だ。半分本名なのはご愛嬌というやつだろう。ダンブルドアの陰謀を感じないわけでもないが、トムにNO!という権利は与えられていない。
 ダンブルドア爆発しないかな、と本気で念じたトムを誰か慰めてやってもいいだろう。 

 一方、ハリーはトムとの会話の糸口を見つけようとしていた。トムの関わるなオーラをものともしないフレンドリーさは、さすがヨーロッパ育ちといえるだろう。 空気を読んだって罰は当たらないよ、と誰か教えてあげて。

「あ、あの、えーと…リドルは今何年生?やっぱり君も魔法界出身なの?」

 ハリーはどこか緊張した面持ちで、そう問うた。
 トムはパラリと本をめくる。本に没頭し過ぎて回りの声は聞こえていないふりをする。
 しかしさすがヨーロッパ人だ(別に馬鹿にしているわけではない)、ハリーはめげない。
もう一度同じ質問を繰り返してくれた。

「……………君と同じ新入生だよ。そして母が魔女だ」

 トムは大分間を開けてから小さな声で答えた。会話したくないというささやかな意思表示だ。察してもらえると有難い。

「え!君って僕と同じ年なの!?」

 期待するだけ無駄だった。ハリーは素っ頓狂な声で叫び、興奮して椅子から身を乗り出す。その食いつきようにトムはひきつり笑いを返すが、キラキラしい目のハリーは構わずに早口で捲し立てる。

「びっくりだよ!同じ歳なんて!大人っぽい雰囲気だったからてっきり歳上だと思ってた!」
「あ、…うん。ありがとう…」

 トムは力なく微笑んだ。





 それから、矢次早しに繰り出される質問に曖昧でおざなりな返答をしていると、突然コンパートメントのドアが開いた。ノックというものを知らない人間がいるらしい。
 トムとハリーはほぼ同時に入り口に目を向ける。そこには自分たちと同じ年頃の赤毛の少年がが立っていた。

「あの、えーと…」

 少年は心底困っていることをアピールするように眉尻を下げ、ハリーの方を向いて口を開いた。

「他はどこもいっぱいで座れないんだ。ここに入れてもらえない?」

 ハリーがトムの表情を窺う。トムはにこりと笑って頷いた。

「いいよ」 

 ハリーが少し緊張した面持ちで微笑むと少年はホッと息を吐く。

「ありがとう」

 はにかむように笑って、少年は入り口から一番近い席(トムの隣、ハリーの真向かい)に腰を落ち着けた。

 トムは内心ホッとしていた。ハリーに別の話し相手がいればトムだけが質問攻めに合うことはなくなるだろう。

「僕、ロン・ウィーズリーだ。本当はロナルド・ウィーズリーなんだけど家族も親戚も皆ロンって呼ぶんだ」

 自己紹介を始めた少年の声を聞き流し、開いたままだった本に視線を落とした。

「僕はハリー・ポッターだよ」
「えっ!!」

 名前を聞いた途端、ロンは声を上げ、ハリーをまじまじと見つめた。ハリーは首をかしげたが、理由に気づいてその表情を苦笑に変えた。

「君がハリー・ポッター?……じゃあ、あるの?その、額に…」
「ああ、あるよ。ほら」

 ハリーは前髪を掻き分けて額を曝した。ロンはそこにある稲妻のような傷を凝視する。
 トムはそれに顔を顰めた。ハリーにとってその傷はおもしろいものではないだろう。例え記憶になくとも両親が亡くなった日に負った傷だ。動物園のパンダのような見世物にされるべきではない。
 トムはやれやれとため息をつき、億劫ながらも口を開いた。

「そういうの、よくないと思うよ」

 いきなり話を振られて、ロンはきょとんとした。

「傷のことだよ。初対面でわざわざ持ち出す話ではないと思うよ」

 少し前まで教師という立場だったこともあり、つい言ってしまった。
 トムの咎めるような口調に、ロンは不機嫌丸出しな顔をする。それを見たハリーは咄嗟にフォローすべく口を挟む。

「あ、僕は気にしてないから」
「だってさ。ハリーが言うんだからいいだろ、別に」

 ロンはハリーが味方になったと思い、得意げに言った。まったく何故咎められたのか理解していない。だが、懇切丁寧に諭してやろうと口を開いたトムは今の自分は教師でもなんでもないことを思い出し、別の台詞を言葉にのせた。

「君、優しくないんだね」

 トムは宥めるような優しい顔で、しかし呆れを含んでロンを一瞥し、再び本に視線を落とした。これ以上何かを言うつもりはない。
 ロンの苛々とした雰囲気を感じ取っても、トムは顔を上げなかった。
 

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