∵ 題名をつけるなら、『悪意について』が妥当だろうか。

アゼルは昔から、周りの人間にどうしようもない奴だと言われ続けてきた。
それは時に陰口であり、時に叱咤であり、時に彼を想うが故の愛情だった。

けれどもアゼルは、その全てを自分に向けられる悪意であると、信じて疑わなかった。

悪意は恐ろしい。アゼルは、人の持つものの中で、最も恐れるべきは悪意であることを、幼少の頃から熟知していた。

故に、悪意のある者は遠ざけた。そして、それはアゼルにとって至極簡単なことだった。

アゼルは金持ちの家の子供だった。親が裏社会で築いた地位は、アゼルに様々な情報を与えもしたし、金銭的な豊さを与えもした。

そんなアゼルが、自分から悪意を遠ざけるための手段として頻繁に用いたのが、暗殺だった。
暗殺の簡易さは幼いアゼルにとって、他の追随を許さないものだった。なにせ暗殺者に依頼し、金を払うだけなのだ。ピザのデリバリーと大差が無い。

そして、アゼルは自らが他人に悪意を持つことを止めた。
悪意は恐ろしい。悪意は他人へ対する執着だった。
悪意でもって他人に執着することは、己を必ず殺すことになる。幼いアゼルは、それを教訓として学んでいた。

故に、アゼルは、その心の上に薄っぺらな善意を張り付けた。
それがやがて、歪な形で己の中に巣くうことを、幼いアゼルは知る由もなかった。



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