▼なんかフラグが立ったらしい



「…神は我を見捨てたもうた…!」

 なんだかよく解らないことに巻き込まれ、散々な目に合い(というか現在進行形で散々だ)、やっとの思いで辿り着いた漏れ鍋。
 そこで、たまたま空いていたカウンターに座ったホグワーツの新米教師トム・リドルは、建前上注文せざる終えなかった紅茶の水面を暫し見つめ、その秀麗な面立ちを酷く苦し気に歪めた。
トムの表情の変化に驚いたのは、カウンターを挟んでトムの真向かいにいた漏れ鍋の店主(彼の名前もトムという)だ。店主はグラスを拭っていた布巾を畳んで、トムに不安げな顔を見せた。

「坊っちゃん。何をそんなに怖い顔してるんだい?まさか…その紅茶に何か…そう、何か良からぬものが混入しているとか、もしそんな理由があるなら、そりゃあもちろん今すぐにでも新しいものに交換しますよ。出来立てホヤホヤのスコーンもつけて」

 店主は周りの客に聞こえないよう、出来るだけ低い声で言った。
しかしそんな店主の努力も虚しく、何人かの客はトムと店主の様子を気にするようにチラチラと視線を寄こした。

「ああ、いえ、とんでもない。紅茶はとても美味しいです。なんの問題もない。とても美味しい紅茶です」

 妙な勘違いをさせてしまった、と思ったトムは苦笑いを浮かべながら紅茶に口をつけ、二度も美味しいと褒めてやった。
店主はあからさまにホッとして、まだチラチラと見てくる客に咳払いをした。

「じゃあどうしたんだい、坊っちゃん。なんであんなに難しい顔をしていたのか聞いてもいいかい?」

 そう尋ねてくる店主の表情から、トムはその感情や思惑を読み取った。好奇心40%、面倒事だったらどうしようと思う不安感40%、親切心20%…得てしてそんなところだろう。
 時刻は夜の7時を回っていた。子供が一人で出歩くには遅い時間だ。下手なことを言えば翌日の噂話のネタにされるか、あるいは魔法省へと引き渡される可能性が高い。
 …やましいことは無いがそうされると何となくマズイ気がする、とトムは困ったような表情を作りながら、くるくる回る頭で考える。

「……」

「…言えない事なのかい?」

 店主の顔が見るからに険しくなっていく。
トムはゆっくりと首を振ってから、頭のてっぺん辺りをかいて、ばつの悪そうな顔を作った。

「あの、えー…実は兄弟と大喧嘩して…勢い余って出てきちゃったんだ」

「おや、それはいけない。親御さんが心配するだろう。いくらポッターさんのおかげで世の中が平和になったとはいえ、暗い夜道の影には危ない連中も潜んでいる」

「えっ…?」

「いやいや、本当だよ。別に脅しで言ってる訳じゃない。例えばね、ほら、ノクターン横丁何かじゃ…」

 顔色の変わったトムの様子を見て、店主は少し気を良くしたようだった。調子づいて子供が怖がるような話をぺらぺらと並べ立て始める。しかし、どれも信憑性に欠ける都市伝説のような話だ。ならば、まだ口の裂けた女がハサミを持って追いかけてくる話の方が怖い。
 トムは内心うんざりしながらも、店主が満足するまで、暫く店主の語るつまらない都市伝説擬きに付き合ってやる事にした。

 トムは店主の話に相槌を打ちながら、一方では全く違うことを考えた。店主の言った「ポッターさんの…」というくだりについてだ。
そもそも、トムが顔色を変えてしまったのは、このポッターさんが原因だ。店主が熱く語る都市伝説擬きや危ない連中が潜んでいる話はどうだっていい。
 トムはここが自分のいた時代より、およそ50年先の未来であることは既に把握している。しかし、逆を言えばそれしか解っていないということなる。
 何故50年も先へ来てしまったのか、や、何故体が縮んで10歳程度の少年に成り下がっているのか、など、こうも不明瞭な点が多すぎると却って身動きが取れないものだ。
そんな状況で他人の口から「ポッターさんのおかげで世の中が平和になった」と聞けば、どうしたって嫌な予感しかしない。
 トムは自分の行き着いた答えにひきつりそうになる表情筋をなんとか抑えて、店主こ話が終わるのを待った。

「…あの、フクロウを貸して頂けませんか」

 店主が話終えて、トムはたっぷり余韻を持たせてから丁寧に申し出た。
 手紙を出すのだ、恐らく一番融通の利く相手に。そして頼る相手を間違えていないか、今一度踏み留まって吟味する。が、ここで手紙を書いておかなければさらに面倒な事になる、と直感的に感じ取った。

「ん?ああ、親御さんを呼ぶのかい?しかし、フクロウじゃ時間がかかるだろう。私が連絡してあげるよ」

 店主のいらない気遣いを貰って、トムは眉を八の字に寄せた。

「あ、いえ、今すぐ親を呼ぶのは……、きっともの凄く怒ってると思うんです」

 トムはティーカップを両手で包み込みながら、肩を竦めて背中を丸める。そうすると、もともと小柄なトムはさらに小さく、そしてさらに幼く見えた。

「怒ると怖い親御さんなんだね」

「ええ、そりゃあもう…」

 トム本人にとっては屈辱的効果としか言えないが、店主は思惑通りに少しばかりトムを哀れんだ。

「でもね、坊っちゃん。こんな時間帯に飛び出した君も悪いんだ。君だって勿論、そう思っているだろう?」

 店主の宥めると同時にたしなめるような言葉に、トムは殊勝に頷く。しかし、間を開けずに口を開いた。

「でも、迎えに来てもらう前に一言手紙で謝っておいた方がいいかなって思うんです。…うちの両親、怒ると周りが見えなくなって、…きっと凄い剣幕でここに怒鳴りこんでくるから…」

「怒鳴りこむ…?」

 トムの言葉を聞くや否や、店主はぎょっとして周りのお客を見渡した。

「あー…いや、怒鳴りこまれるのは、なぁ。他にお客様もいるわけだから」

 店主が狼狽える様子を見て、トムはしめたとばかりに眼を細めた。ティーカップから手を離し、頬杖をつきながら店主を見上げる。

「だから、フクロウを貸して欲しいんです。手紙で丁寧に謝っておけばそこまで怒ったりしないし」

「…本当かい?」

 念を押すような店主の目を見て頷けば、店主は無言で頷き返した。

「そういうことなら、まぁ…。しかし、君の親御さんが怒鳴りこんで来るのだけは、本当に勘弁してくれないか」

「ええ、勿論です。フクロウさえ貸して頂けるなら」

 トムは打って変わって笑顔で応じた。それを見た店主が居心地悪そうに身じろいだが、もはやトムの眼中ではなかった。

「フクロウはどこに?」

「上の階さ。行ったら分かるよ」

 店主の言葉に頷いてトムはするりと立ち上がる。そのまま二階へ上がり、さらに上へ上がると、狭苦しい屋根裏がそっくり鳥小屋になっていた。
 フクロウの存在を確認したトムはひとつ下の階まで戻り、ローブのポケットから小さな布袋を取り出す。
トム自身が魔法をかけた布袋には、基本的に生き物以外なら何でも入っている。そこからペンとインク、羊皮紙を出し、埃を被ったライトが置いてあるテーブルでペンを走らせた。

「これが吉と出るか凶と出るか」

 夜空に飛び立ったフクロウの後ろ姿を眺めて、トムはぽつりと呟いた。

「どちらに転んでも、最後に笑うのは私、だといいのになぁ」




ここで終了!やっちまった\(^o^)/
闇の帝王成り代わりとか旨すぎる…!そして漏れ鍋店主の口調なんてもう知らね!
本当は青年のままトリップしてホグワーツの教員にしたかったけど生徒になるのも捨てきれなかった若返り乙!
続きは…書くかもしれない。予定は未定ですね、わかります。
しかし嘘みたいだろ、ハリポタの内容なんてあんまり覚えないんだぜ!

※漏れ鍋に屋根裏があって鳥小屋として使われていたという事実はありません。多分。
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