目覚めて、最初に見たのは石の壁だった。削った岩肌がそのままむき出しになっている。どこからか水が漏れているのか湿っている。
それが壁ではなく天井だと知ったのは、自分が仰向けに寝ていることに気付いた後だ。
霞みがかってぼんやりとした頭を、瞬きを繰り返すことで何とか覚醒させる。しかし、麻酔が切れる前に目覚めたかのような酩酊感が張り付いていた。

どれほど経っただろうか。漸く頭に血液が巡り始めた。
今自分が寝ているのは、どうやら洞窟のような場所らしい。
頭上から水滴が落ちてきて、鼻先に当たった。
冷たい。
身体の感覚もはっきりしてきている。

そして、地獄がやってきた。
身体中を駆け巡る不快感にじわじわと感覚を侵食されていく。
最初は吐き気だった。腹の中に石を詰め込まれたように重苦しい。
それから熱だ。発熱している。頭が蒸されたように熱く、吐息も熱で湿っている。
そして、寒気。身体中を悪寒がゾワゾワと這い回った。
そうして漸く、痛みがきた。内臓に手を突っ込まれてかき回されるような吐き気を伴う痛みだ。
腹の中の全てを吐き出したい。しかし、体に力が入らない。筋肉の動かし方を忘れてしまったかのようだ。どれだけ頑張っても指一本動かなかない。
痛い。気持ち悪い。吐きたい。動けない。寒い。熱い。痛い。痛い。痛い。痛い。


「起きたのか、市松」


よく知った声が、すぐ傍から降ってきた。


「体調は・・・良くなさそうだ」


声の主が視界に入る。
梔子だった。

梔子は見るからに窶れていた。


「まだ、少し寝るといい」


梔子はキセルを手にしている。火皿には液体が入っている。
梔子は徐にかがみ、キセルの吸い口を市松の鼻先に寄せた。


「煙を吸うんだ」


火皿の底を火で炙ると、吸い口から煙が出る。何呼吸かする内に痛みは遠のき、意識は薄れていった。
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