地下には牢屋があった。
何年も使われた形跡はなく、床にはススや埃が積もっている。人の出入りがあればすぐにわかる。
地下牢は全部で4部屋あった。うち3つは何もないが、1つは古書置き場にされていた。前の住人が、本の日焼けを防ぐために置いていたのかもしれない。
梔子はそこに口寄せ用の巻物を隠していた。
梔子は烏と契約している。とても賢い烏で、よき相棒だ。
この烏は情報の伝達能力に優れている。
当初、梔子は烏を口寄せしたまま連れて来るつもりだった。
いざという時に、迅速に救援を求めることができるからだ。
しかし、それは叶わなかった。
師であるダイコクが、よしとしなかったのである。
梔子は抗議し、その理由を追及したが、結局明確な返答は得られなかった。
この事に関し、市松は、烏は屍肉をあさるので、縁起が悪く見えるからだろうと言っていた。
勿論、そんな理由で納得する梔子ではない。
その為の道具は持って来ていた。


地下への階段を降りた時、梔子は驚愕した。
床に積もっていたはずの埃が綺麗に拭き取られていたからだ。
壁や天井もよく磨かれ、等間隔に置かれた蝋燭には火が灯っている。
蝋燭の溶け方からして、火が灯されてから4時間ほど経っている。
人の気配はない。

梔子は急いで古書置き場へ向かった。
牢屋は4部屋が横並びになっており、一番手前が古書置き場だ。
牢屋の手前には長い廊下があり、鉄でできた扉で仕切られている。
梔子は廊下を渡りきり扉を開いた。
古書置き場はすぐ視界に入った。蝋燭の灯りが灰色の壁をオレンジ色に照らしているため見やすかった。
何者かが古書に手をつけた形跡はない。
梔子はホッとして、巻物を回収する。 巻物さえ手に入ればここに用はないが、念のため他の牢の中も確認する事にした。
隣の牢には特に何もなかった。その隣も空だった。しかしどちらも綺麗に掃除され、壁に何かの模様が描かれていた。
梔子は気味が悪くなり、巻物を固く握り締めた。

そして、1番奥の牢を見て、





「さ、よ・・・?」






ーーーー小夜がいた。





それは、酷い有様だった。


四肢に杭を打たれ、壁に張り付けられていた。
服は着ていなかった。
体は綺麗に洗われ、蝋燭の灯りに照らされても彼女の肌は真っ白だった。
瞼はは開いたまま固定され、瞳がある場所には黒い硝子玉が嵌められていた。
眼球はくり抜かれ、液体の入った小瓶の中で濁っていた。
腹は縦に裂かれ、中身は取り出され、代わりに真っ赤な椿の花が詰め込まれていた。


小夜は殺されていた。

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