hello [ 8/11 ]
この頃の兄さんは、数日前の兄さんより生き生きしているように見える。
なにかあったんだろうな、と思い兄さんに聞いてみたところ、「なんでもない」と嬉しそうに言って教えてくれない。
弟として少し寂しくなるような思いもしたが、たぶんあのパティシエとうまくいってるのだろうと思うと、寂しさは自然と消えていった。
うまくいっているのなら、自分が何かしなくてもいいんじゃないか。
そう思い、兄さんの応援隊のメンバーである七瀬さんと二階堂さんにこのことを伝えた。
「…俺ら、なにもしなくてよかったな」
「三月すごいなぁ…」
二人とも少し残念そうにしていた。
「せめて相手の顔を見たいんだけど、だめかな…?」
「……そうですね。兄さんのことどう思っているのか気になりますし…」
「よし、今度のオフにミツに内緒で見に行こうぜ」
「やったー!!」
こうして兄さんに内緒であのパティシエに会いに行くことになった。
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「へぇ、ほんとに目の前にあるんだな」
「ケーキ屋が向かい合ってる……」
「ええ。驚きますよね、本当に」
カラン、と音を鳴らして店内に入る。
「いらっしゃいませ」
あの時と同じように、優しい笑顔で迎えてくれた。
「一織、もしかしてこの人…?」
「そうですよ」
肯定したら、なぜか驚きを隠せない、といった表情をする七瀬さん。
「はは、ミツ男に惚れたの?」
「…私、男って言ってませんでした?」
「「言ってない」」
店の入り口でこそこそ話している私たちを不思議そうな顔で伺う彼。
「どうかなさいました?
…あ、お向かいの…!」
近寄ってきて声をかけられたと思ったら、私と目が合った彼は少し嬉しそうにはにかんだ。
「こんにちは。いつも兄さんがお世話になっています」
「いやいやこちらこそ!むしろ三月くんに感謝してるくらいです」
ここに来たらいつもケーキを食べてくれるんです、と嬉しそうに目を細めて話す彼に驚いた。
脈あり、ですかね…?
「一織…」
後ろの袖をくいっと引っ張られたほうを向くと、七瀬さんが紹介して欲しそうな顔をしていた。
「こちら七瀬さんと二階堂さんです」
「七瀬陸です!」
「二階堂です」
「初めまして。相良真琴です」
握手をし合う三人を見つつ私はようやく彼の名前を知れたことにひとまず安心した。
「三月くんのお友だちですか?」
「友達っていうか、仲間っていうか…。
あっ、俺たち、IDOLiSH7っていう名前でアイドルやってるんですけど…ご存じないですか?」
「すみません……。流行には疎いものでして…」
「まあ、俺たちなんかまだデビューしたばっかですから」
「そうなんですか?」
「はい。いつかTRIGGERやRe:valeに並ぶようなアイドルグループになるべく、日々精進しています」
"TRIGGER"という言葉にわずかに反応した相良さん。
「それじゃあ、頑張っている君たちにささやかなご褒美を差し上げます」
何事もなかったかのようにカウンターに向かう相良さんは、先程の反応は自分の気のせいだったのかと思うほどだった。
しばらくして戻ってきた相良さんの手には、黄色いキャンディーが3つ握られていた。
「はい」
「ありがとうございます…!うわぁ、かわいいなぁ」
「すみません。いただきます」
「器用だなー…。ありがとうございます」
それぞれネコ、犬、うさぎの形をしたペロペロキャンディーだった。
かわいい…。
「がんばってね」
そう言った相良さんは、優しさで包まれていた。