charming [ 7/11 ]
相良さんから名前を教えてもらった日から、俺はオフの日は必ず『citron』に行くのが習慣になった。
カラン、
「相良さん!こんにちはー!」
「いらっしゃい、三月くん」
俺が来たら相良さんは必ず笑顔で迎えてくれる。
まあ、お客さんっていう理由だからと思うけど…。
でも、俺はこのふわって笑顔で「いらっしゃいませ」って言われるのが好きだ。
「ご注文は?」
「じゃあ、今日はショートケーキで」
「かしこまりました。ちょっと待っててね」
相良さんの店は檸檬を中心としたケーキが多くて、「甘さに酸味があってさっぱりとした味だから、何個でもいける!」ってここにケーキを買いにきたお客さんが言っていたのを聞いたことがある。
本当に、その通りだと思う。
さらに、この店には食べるスペースを設けている。
俺はいつもそれを利用している。
相良さんが暇だったら一緒に話しながら食べることができるから、万々歳だ。
席で待っていると、相良さんがケーキを持ってきてくれた。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます!」
コト、と置かれたショートケーキを見る。
ケーキの頂きにあるのは、苺じゃなくて檸檬。
一口サイズに切って口に運ぶ。
「うまい……」
クリームがしつこくなくて、甘さも檸檬で均等されてちょうどいい。
しばらくこのケーキを堪能していると、いつの間にか向かいに座っていた相良さんににこにこしながら見られていた。
「えっと……」
「あ、ごめんね。三月くんがあまりにもおいしそうに食べてくれるから嬉しくて」
ふふ、と笑う相良さんは本当に嬉しそうで……。
不覚にもきゅんと来てしまった。
熱を持った頬を誤魔化すため、またケーキを口に含んだ。
…うん、やっぱりうまい。
一織たちにも土産に買っていこうかな…。
ぼやっとそんなことを考えていたからか、相良さんが近づいていることに気がつかなかった。
「三月くん」
「へ」
一瞬檸檬の香りがした、と思ったら、目の前に相良さんの手が伸びていて、俺の口の端を人指し指で撫でた。
相良さんの指先にクリームがつき、それを口に運び、舐めとる。
一連の流れを見ていた俺は、動揺を隠せるわけもなく、持っていたフォークを落としてしまった。
「わあっ!大丈夫?」
「あっすいません!!」
新しいフォークと布巾持ってくる!、とその場を離れた相良さんに少しホッとした。
なに、いまの……。
先程の出来事が脳裏に流れる。
舐めるときの相良さんの表情が、あまりにも妖艶で直視することができなかった。
しかも、それはたぶん無意識の表情だと思われる。
相良さんはどことなくフェロモンみたいなやつ垂れ流してるからなぁ…。
無意識って怖い。