いらっしゃいませ | ナノ
his true feeling [ 9/11 ]

「俺、好きなやつがいるんだけどさ」




そう楽にカミングアウトされてから数秒後。


俺は楽の顔を凝視した。



「…え?誰?」



「男」


「えっ男?!」


おー、と言いながら酒を飲み続ける楽。

今日ハイペースなんじゃない?大丈夫?
といつもは心配するが、今日はそんな余裕が無かった。



楽と仕事が終わってから飲みに来たのはいいものの、楽はなんだか今日は疲れているらしく、酔いがまわるのは俺より早かった。


これ、俺も飲み過ぎたらまずいよな…?

でも、泡盛飲みたいし…。

でも楽はこの調子だとべろんべろんになりそうだし…。



悶々と頭の中で会議していたら、楽がまた口を開いた。


「あいつ、ほんとは寂しがり屋でさ…。
だから、いつも誰かが側にいてやんなきゃいけねぇんだ」


そう言った楽は、好きな人の話をしているのに、どこか悲しそうだった。


「楽が側にいてあげたらいいんじゃないか?」

「……俺じゃ、だめだ」


「どうして?」

「だって、あいつ、俺のことを拒むんだ…」


もしかして、楽が一方的に好きだということだろうか?


「あいつ、俺の立場を考えて、自分から近寄って来ないんだよ」

「楽の立場…?楽がアイドルだからってこと…?」

「ああ」

はぁ、とため息をつく楽。


楽のことを配慮しているってことは、両想い、なのかな…?


それにしても、こんなに弱っている楽は今まで見たこともなかった。


楽をこんな風に翻弄する人って、いったいどんな人なんだろう、と気になった。


「俺は別に、立場とか気にしてないんだけどな…」

「そのこと、その人に言ったの?」

「言ったさ。…でも、俺の話なんか聞いちゃいねぇ」


あー思い出したら腹立ってきた、と額に手をあてて顔を歪める楽に、俺は苦笑いを浮かべる。



「よし、行くか」

「……え、ええ?!」


突然立ち上がった楽はそう言い、ふらっとしながら歩き出した。


楽の中で何が起こったのかはわからないけど、酔った楽を一人にすることが不安な俺は、慌てて楽を追った。


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