first contact [ 3/11 ]
「兄さん」
「ん?」
「本当にそれ、持っていくんですか?」
それ、とは俺の腕の中にある赤いバラの束のことだろう。きっと。
「やり返さないと気がすまないからなあ」
けちょんけちょんにしてやる!
と俺は首をこきこき鳴らしながら目標地点に向かう。
「バラで何ができるんですか…」
呆れたように笑う一織に早くこい、と促した。
「悔しいけど、近くで見るとやっぱかわいいよなぁ〜」
外装は白を基調とし、店内は淡い黄色で包まれていた。
天井からぶら下がるパステルのライトはオシャレだし、置いてある小物もかわいらしい。
店としては小さいが、そこがその店の雰囲気に合っていて個人的に好きだった。
「よし、入るか………一織?」
「なんでもないです」
いやいやなに連写してんだよ。なんで店だけじゃなくて俺も撮ってんの?
カラン、と馴染みのある音が響いた。
すると、こちらに背を向けていた男の店員がゆっくりと振り返った。
「いらっしゃいませ」
ふわり、とあまりにも綺麗に笑うもんだから、俺はその人から目が離せなくなった。
「兄さん?」
動かなくなった俺を不思議に思った一織が俺の顔を除きこんでいた。
だけど、なぜかわからないけど、そのときの俺は一織に目を合わせるどころか、返事もできなかったんだ。
「あの、大丈夫ですか…?」
あの人が、いつの間にか目の前に来ていた。
すると、不思議とさっきまで動かなかった体が動き出した。
「あっ、だいじょぶ、です!」
「に、兄さん…?」
「そっか、ならよかった」
にこ、とまた笑みを向けられる。
眩しくて直視できねえ……
「兄さん、バラ」
「あ、そっか」
俺に耳打ちした一織のおかげで今日の目的を思い出した。
「あのっ、これ、どうぞ…!!」
「えっ…それ、俺に?」
ばさ、と音を立てながら花束を押し付けた。
当然その人はびっくりしていた。
「ありがとう…」
でも不審がらずに受け取ってくれた。
それも、照れながら。
かーーーーーっと全身が熱を帯だし、俺はどうしていいかわからず、そのまま店を飛び出してしまった。
「すいません、突然」
「あ、いや。ありがとうございます、お花。
でも、どうして急に…?」
「向かいの家の者です。今家を離れていて…、久しぶりに帰省したんです。それで、挨拶に伺いました」
「あ、お向かいさんの…!すいません、目の前に建てちゃって……」
「いえ、大丈夫です。これから末永くよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ……、末永く?」