mysterious night [ 10/11 ]
タクシーで向かった先は、こじんまりとしたかわいらしいケーキ屋だった。
ふと腕時計を見ると、短針が10を指していた。
当然灯りがともっていないそこは、少し不思議な雰囲気を醸し出していた。
タクシーに乗って行き先を告げた後すぐに寝てしまった楽を起こしてタクシーのおじさんにお礼を言って降りる。
「楽、ほら、着いたよ」
「ああ…」
楽に着いてきたのは俺の勝手だけど、せめてどこに行くかくらいは言ってほしかったかな…。
おそらく、楽は自分の想い人に会いに来たんだろうけど。
フラフラとしながら歩く楽を支えながらとりあえず店の裏口の方へ向かった。
淡い光が漏れているドアを開けると、広い台所らしき所に一人の男がいた。
彼はこちらに背を向けて一生懸命何かをこねるような動きをしていた。
ぼやっとその様子を見ていると、楽が隣にいないのに気がついた。
それと同時に前方から小さな悲鳴が聞こえた。
どうやら楽が後ろから抱きついたようだ。
「え、なんで……」
驚く彼にさらに密着する楽。
「真琴…」
切な気な声でそう呟き、楽は男の顎を掬い上げ顔を寄せようとしていた。
さすがにやばいと思い、酔いが回って冷静な判断ができないであろう楽を慌てて男から引き剥がした。
すると、目を大きく開かれた男と目が合った。
「突然すいません。楽が心配で着いてきちゃって、その……」
言いたいことがうまく言えなくてもどかしい。
「い、いえ…。」
「……」
「……」
き、気まずい…!
楽はいつの間にか静かに寝息を立ててるし、俺は初めましての人だし…!
先に沈黙を破ったのは彼のほうだった。
「楽、うちで預かりましょうか?」
「ええっ」
「今帰しても、たぶんまた来ると思うので…」
困ったように笑う目の前の彼と楽の関係がいまだによくわからなかった。
見たところ険悪な雰囲気ではなかった。
むしろ恋人のように甘い雰囲気すら少し感じた。
…俺が邪魔してしまった、とでも言ってもいいくらいだ。
楽も好きな人、って言ってたし、目が覚めて一番にその人に会えたらきっと嬉しいよなぁ…。
そう一人で考えた結果、彼に楽を任せることにした。
今度は愚痴話じゃなくてのろけ話が聞けるといいなぁ。
嬉しそうに話す楽の姿を思い浮かべ、俺は一人夜道で小さく笑った。