強くなれるだろうか。独りじゃないと、共に歩こうと言ってくれた彼らの手を取り、自分はもう一度この宇宙に光を見つけられるだろうか。


涙で世界は救えない 26



あの日から数日後、室内はとても爽やかな風で満たされていた。窓枠に寄りかかりながら、歩生は真っ直ぐに広がる青い空を見つめている。コンコン、とノックの音が静かに響き「入るぞ」と聞こえた声に振り返る。
何やら書類を片手にライアが隠すわけでもなく大欠伸をしながら病室に入ってきた。聞けば当面のリハビリの計画表と、最新の自分の診断書らしい。隣に立ってパラパラと書類を捲ってくれる彼の手元を歩生は黙って見つめる。

「歩行は直ぐに出来るようになるだろう。今日見た限りじゃ、もともと体幹もしっかりしているみたいだからな……どうした?」
「この宇宙の広さは残酷だ」

見上げた先の少し疲れた顔がほんの一瞬驚く素振りを見せたあとに、遣る瀬無く微笑んだ。そうだな、と大きな手が肩を叩く。その姿が、なんとなく父親に重なって見えて歩生は少しだけ息を呑んだ。
瞼の裏に焼き付いた閃光は何度振り払ったとしても、未だ鮮明に夢に見る。もうどうしようもないことだった。受け入れるほかに、術がない。

「けど、その広い宇宙の中で、貴方や彼らに出会えたことは、俺にとって本当に救いだった」

ライアの深い臙脂色の瞳がすっと細められた。一切の緩みなく与えられる視線に、歩生もじっとその眼を見つめ返す。


「もう一度、飛んでみようと思うんだ」


言い終える頃には自然と気持ちが高揚し、歩生の口角は静かに上がっていた。少し前まで、生きていることに絶望すら感じていたその瞳は、今や目の前に掲げた希望を追おうとしている。
「イイ顔するようになったじゃないか」
「その言い方、おじさん臭いよ?」
「実際もうおじさんだからなぁ」
声を出して笑うライアに向かって歩生は少しだけ頭を下げた。
「でも貴方には、感謝してる。ありがとう」
「やめろやめろ。擽ったい」
資料を持つのと反対の手を払い、犬や猫でも追い払うような仕草を取った彼は、大人相手に多少皮肉ってるぐらいが、お前らしくて俺は好きだぜ。と今度は歩生がこそばゆくなる様な台詞を言ってのける。

「まぁ、頑張れよ」
「とりあえずリハビリを乗り切ったら航宙軍に入ることを目指すよ」
「あ、鬼教官には気を付けろよ?お前、ランカと仲良いみたいだし」

餞別がてら忠告しといてやるよ、と笑ったライアの顔はとても意地の悪い顔をしていた。これは本当に注意が必要そうだなと、歩生は心の片隅にその情報をそっと置く。



意志はしっかりと固まった。
あとは、身体と心がそれについて来られるかどうかだけだ。現実から目を背けずに、今と向き合って、再び宇宙を自由に飛び回れるかどうかは結局、自分次第だ。

――父さん。
俺はもう一度、貴方が散ってしまったその空を、目指してみてもいいかな?

心の内側、力強いその声で確かに“行って来い”と聞こえた気がした。

20180815
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