「トシ、火ぃ貸して」
ガス切れたわ。燻りかけて先の焦げ付いた煙草を咥えながらその女ーー松平清は、窓際で双眼鏡を片手に大使館を見張っていた同僚、土方の隣に静かに並んだ。

「人のこと言えた義理じゃァねぇが、吸いすぎだぞ」

土方の手元でジュッと音を立てて炎を揺らせたライターの火口に煙草の先を近付けながら、清はその瞳を窓の外へと向ける。鈍色のその眼は鋭く辺りを走ったあと、何かを見つけたのか焦点を合わせるように細められた。そして紫煙を緩やかに吐き出す口元が微かに笑んだ。爆音に辺りが包まれたのはわずか数秒後だった。



ジジイになっても
あだ名で呼び合える
友達を作れ




「とうとう尻尾出しやがった」
「相変わらず逃げ足の早いこった」

ふざけた天パの白髪に、賑やかなチャイナ服の娘、眼鏡のパッとしないガキを引き連れて攘夷志士、桂小太郎は大使館を背に駆ける。一体全体、今回は何のパーティだ?日頃連んでいる攘夷浪士達とは明らかに毛色が違う3人組をマジマジと見つめながら清はどこか楽しげに紫煙を燻らせた。これは面白いもんが見られそうだ、と。

「天人との戦で活躍したかつての英雄も、天人様々の今の世の中じゃただの反乱分子か。このご時世に天人追い払おうなんざ、大した夢想家だよ」
「まぁ残念ながら夢じゃ飯は食えねーが」
みるみる小さくなっていくその背中を視線で追いかけるのを止めた清は、勤務中にも関わらずチャラついたアイマスクを付けて眠る沖田に、桂の指名手配書を投げ付けた土方に笑みを向ける。
「そんなロマンチストもあたし達にとっちゃ立派な食い扶持だ。有難いもんだよ」
足元に転がり戻ってきた手配書を手の上で広げる。化粧でもさせようものなら女子と見間違うほど綺麗な顔の造形をしたこの男、桂小太郎。仏頂面を浮かべる男の写真が載ったそれの端に煙草の火口を当てると、じわりじわりと紙の焦げ広がるその様を見つめながら清は再び紫煙を深く吐き出した。

「オイ、沖田起きろ」
お前よくあの爆音の中寝てられるな。呆れ返ってむしろ賞賛しているようにすら感じる土方の物言いに、清は全くだと焼け広がる手配書を窓の外に投げ捨てると大きく伸びをする。
寝る子は育つとは言うが、職務中によくもまぁこうも堂々と眠れるものだろうか。それも上司を2人も目の前にして。どこで育て方を間違ったかなぁ、と溢れる灰を窓の外で吹く風に流しながら清は1人思う。

「爆音って……またテロ防げなかったんですかィ?何やってんだィ。土方さん真面目に働けよ」
「もう一回眠るかコラ」

おまけにこの度胸。
一体誰に似たんだか、と問おうものなら目の前で物騒な顔をする同僚はなんの迷いもなく「お前だ」と言うのだろう。まぁ、清にはそれを否定をするつもりもないが。

「さてと……たまにはトシに怒られないようにちゃんと仕事するかー総悟ォ。行くぞー」
「へェい。土方さァん、ちんたらしてたら、置いて行きやすぜィ」
「ッたく……どいつもこいつも」

背後で大きく響くそのため息に清と沖田は視線を合わせて小さく笑った。

20230710


4/8
top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -