「ねぇ!とっつぁん!ホントのホントにいいの!?可愛い娘なんだろ?」
「心配いらねェよ。近藤ォ」
いくら自信があると言ってたって、相手はウチじゃ一番刀の腕が立つ総悟だ。アイツ相手に技術やセンスだけでどうにかなるもんじゃないのは俺が一番よく知っている。アイツが小便垂れてた頃から見ているからだ。
清ちゃんにはたっぱがある分リーチもあるし、ある程度鍛えているだろうこともちょっとした仕草から分かる。けれども彼女はあくまで女性だ。生まれ持った力のポテンシャルはそう簡単に埋められない。

「お前らにャぁ悪ィが、あいつを隠せるのは……ここだけなんだよなァ」

どういう意味だ、と問いかけたところであたりの空気が微かに震えるのを感じた。総悟の目つきが変わっている。どうやらもうスイッチが入ってしまったらしい。隊士たちも固唾を呑む。
その奥ではトシだけが一瞬たりとも見逃さないという風なまさに鬼の形相で成り行きを見つめている。

「抜かねェんですかぃ?」
「……先に抜けよ。ハンデだ」
「自信満々ですねェ。嫌いじゃねぇや」

口角を上げながら総悟が静かに刀を抜いた。その切っ先が、標的を捉えるように清ちゃんの顔に向けられる。その瞬間、震えていた空気がほんの少し止まったような気がした。

「……ッ!?」

やけにゆっくり見えたような気もするし、追いつくのがやっとだと感じる程速くも思えたその動きに隊士全員が言葉を失った。一秒足らずで総悟の背中を取った清ちゃんの刀は少しのブレもなくその首筋を捉えている。刀で防いでなければ、今頃総悟の頭はこの目の前に転がっていただろう。
とてつもなく、速い。
抜刀から、間合いを詰めて、背後を取り、刀を突き付けるまで……瞬きをする間ほどしかなかった筈だ。

「へぇ……今の、追えるのか」

彼女の纏う気が明らかに変わった。
チラリとこちらを見た視線に身体が固まる。正確にはとっつぁんと視線を交わしたのだろうが、自身がその眼に射抜かれたような気分になった。
「おいおいおい、とっつぁん!アンタ一体何連れてきたんだよッ!」
「あぁ?可愛い娘だって言ったろォい?」
刀を片手で振り回すような女は、決して可愛い娘とは言わない。眼前で繰り広げられる死闘は、完全に総悟が防戦一方になっている。
我流なのか、俺の知らない流派なのかは分からないが、先程から彼女は左腕一本でしか刀を持っていない。それも空で器用に柄を持ち帰ることにより、常にその刃が総悟に向けられているような状況。未だ嘗て見たことのないその攻め方に、トシも驚きを隠せないでいるようだ。
たった一人、その状況を楽しんでいるのはいつ切られるやもしれないというのに、総悟だけ。

「コレのどーこがッ、可愛いんだかッ」
「無駄口叩く余裕もある、か」
「くッ……上等でさァ。面白ェ」
アイツの笑みが深くなるのに比例して、少しずつ息も上がり始めている。こんなにも押されている総悟を見るのは初めてだった。だが奴も一筋縄ではいかない実力者だ。確実にその太刀筋を読みながら少しずつではあるが動きに変化が出始めていた。
そして、開始から十五分、一瞬の隙をついて今度は総悟がその背を取る。もらったと言わんばかりに渾身の一撃を放つその姿を全員が息を潜めて見つめていた。
が、

「右も……使えんのかよィ。っチ」

刀を右手に持ち替え、振り返りもせずに総悟の眉間に切っ先を突き付けた清は「今日はこれでお終い」と刀を静かに下ろした。
「……んだとッ!」
「あーあ。すんませーん土方さァん。負けちまいやしたァ。でも結構マジにやったんで切腹は勘弁してくだせェ」
少しだけ肩を上下させて息を整えながら言う総悟に、トシも「分かってる」と吐き捨てるように呟いた。彼女の実力は、認めざるを得ない。
「沖田さんが……負けるだなんて」
「なんだよこの女ッ!」
「す……すげェ……」
騒めく隊士たちを、煩ェの一言で譴責したトシは渋々こちらへと視線を向けた。満足気に声を上げて笑うとっつぁん。

「トシィ。分かったろォい?清ちゃんはねェ、鬼のよぉに強いんですゥ」
「ッ……わぁったよ!」

苦虫を噛み潰したようなその表情になんとなく申し訳ない気持ちになった。今日、この場で今の一戦を見ていたかいないかで彼女を受け入れる真選組の在り方は大きく変わってくる。それに気付かせてくれたのは間違いなくこの男だ。
やっぱり俺はトシがいないとダメだなァ。

「あたしも前言撤回する。あんたらがホントに芋侍だったら……」
刀を鞘に納めながら、清ちゃんは幾らか穏やかな空気を纏って辺りを見渡した。それこそ、ここに集まった隊士の顔を全て眼に焼き付けんばかりにゆっくり、しっかりと。

「多分、殺してただろーから」

納めた刀を軽く放ってトシに返した清ちゃんは少しだけ楽しそうに笑った。この父親にしてこの子。もはや血の繋がりは関係ない。
間違いなく親子である。



改めて、最恐
20180803


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