空に咲く声
俺で良ければやらせて下さい、と先程までの難しい表情を解き放ったアルトにシェリルは小さく息を詰める。そんな彼女をひとり置いてグレイスは簡単に礼を述べるとそのまま打ち合わせを始めてしまった。何よ、何よ。手にしたグラスに残る水を一気に飲み干す。

「初見でも大丈夫かしら」
「それは平気です。ただ、正直伴奏の経験が浅いから……」

チラリと此方を見る瞳が揺れる。ふい、と顔を背ければ諌めるようなグレイスの声に名を呼ばれた。わかっている。生演奏での歌唱は奏者と息が合わなければ成り立たない。だからこそ、ひとりでやるつもりだった。彼女がいないのなら、彼女の演奏でなければ意味がないのだから……



――いい音、ね



「言っておくけど、もしもアタシの気に入らない演奏をするようならカメラ回ってたって止めるわよ」
「……っ、分かっている」
キリリと敵意を含んだようなアルトの視線にかみ殺すような笑みを投げる。悔しかったらアタシを満足させてみなさいよ。挑戦的に見つめて、それから時計に視線を移すシェリル。時間ね。凛と、窘めるようなグレイスの言葉にステージの真ん中に歩んでいく。
落とされた店の照明に煌びやかに光るピンクゴールドの髪。マイクを手にした途端にガラリと空気すら震わせたシェリルの存在に、アルトもその周りの人間も思わず息を飲んだ。

「曲がりなりにもプロ、か」
「聞こえてるわよソコ!」
ほんのわずか一瞬でもシェリル気圧されたことへの賞賛とも虚勢とも取れる一言を聞き逃さなかった彼女は、ビシリと人差し指をピアノの前に座ったアルトに突き刺した。全くロクな奴じゃないわね、とため息を吐く。
どうとでも。鍵盤の上に指を滑らせたアルトは簡単に手を馴染ませるようにソレを弾く。そうして、スタッフの秒読みが始まり、その後にシェリルの第一声が店内を満たした。



神様に、恋をしてた頃は

こんな別れが、

来るとは思ってなかったよ


 

20111115 Takaya
刹那、呼吸すら失うように
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