ここに歌さえあればいい
「今日シェリルの伴奏をする予定だった子が来れなくなったのよ……」
整えられた眉を八の字にして腕時計に目をやったグレイスだったが予定の時間までは極僅かしか残されていない。もうすぐ残りの局の人間も到着するはずだ。

「良いわ。アタシ1人で歌う」

ふぅ、と深く息を吐き出したシェリルは立ち上がる。確かに、残された道はそれしかないと「そうね」と渋々頷くグレイスにミハエルはポンと手を打って口を開いた。

「代役に推したいヤツがいるんですけど」
「代役……」
「……は?」
黙ったまま驚いたようにミハエルを見つめたグレイスとは裏腹に、あからさまに顔をしかめたシェリルは冗談じゃない、と薄く冷たい笑みを浮かべる。

「アイツ……音大通ってて、腕もそこそこ良いんですよ。だから、」
「だから何?結局はアマチュア、ただの一般人じゃない」
刺々しいシェリルの物言いに少なからずムッとする気を覚えながらも、ミハエルは慣れた人の良さそうな笑みを浮かべていた。
「まぁ確かにそうですけど……おい、アルトっ」
その呼び声にゆっくりと振り返ったアルトはスッと目を細めてこちらを見ている。何だよ。惜しげもなく感情を表した表情に内心笑ながらもミハエルは手を招く。「ちょっと来い」と言えば釈然としないものの仕方がないといった風に椅子から立ち上がった。

「アルトって、あの早乙女家のご子息さん?」

その名を聞いてピンと来たのはどうやらグレイスだけだったらしく、シェリルは「誰よ」とアルトに厳しい視線を向けている。
あくまで両親、早乙女があっての自分。それを思うとなんとなく不甲斐なくて、アルトの口からは小さくため息が漏れた。

「だったら何だよ……」
気だるさそうな視線だったが、その芯ではグレイスを射抜く様に見つめ、その心裏をはかろうとしている。なまじ顔が整っているせいで、嫌な威圧感すら与えるアルトの表情ではあったが、流石は敏腕マネージャー。場数を踏んでいるだけのことはある。緩く弧を描いた唇からは、当たり障りのない台詞がサラサラと流れ出た。
「シェリル、今日の所は彼に頼みましょう?勿論、アルトさんが引き受けて下さると言うのなら、だけど」
「グレイス!本気で言ってるの!?」

声を張り上げたシェリルと、対照的に首を傾げるアルト。漸く一体なんの話なんだ、と尋ねるアルトにミハエルはことの経緯を簡単に説明した。

2011XXXX Takaya
世界の中心に響くのは、
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -