ミスティローズの焦燥
「いやー生でも美人だよなぁ」
その上あのスタイル。ボソリと溢せば、隣に座っていた青年が些か不機嫌そうに鼻を鳴らせたのをミハエルは聞き逃さなかった。どうやらシェリルの高飛車な性格がお気に召さなかったらしい。珍しくもグラスの中身を一気に煽ったアルトは、声のトーンをそっと落として囁くように吐き捨てる。
「……感じ悪いな」
「相変わらず小さい男だなぁ、お前は」
ケラケラと笑ながら立ち上がったミハエルを睨み付けたアルトだったが、酔いが回っているのか何処か視線が覚束ない。弱いくせに、とカウンターの向こうに手を伸ばし、ミハエルは水の入ったピッチャーを取って、空になったアルトのグラスに注ぎ入れた。
煩いな。些か上気した顔が少しだけ険しさを増す。

「さ、仕事仕事」
「おい、」
高らかに鳴り響いたベルの音に続きを遮られたアルトだったが、それ以上は大人しくも水を飲んでいた。飽きないヤツ、と笑みを含んだミハエルは、新しい客の元へと歩んでいく。
顔馴染みのその客は、ヒラリと右手を上げ、いつもの頼むよ。と店の奥の静かな席に真っ直ぐに向かっていった。

そして、それから少し後のことだ。シェリルが来るという口コミはあまり広がってはいなかったようで、結局のところが常連により満たされる客席があちらこちらにある店内。たまにオズオズと扉を潜る客が、未だに打ち合わせを続ける生のシェリルの姿を見付けてはハッと息を飲み、それも束の間、店内の落ち着いた雰囲気に気圧されて隅の方で居心地が悪そうにしている始末だ。
早くはじまらないかなぁ、と始終笑みを絶やさぬランカだけが、この店内で唯一シェリルを前に活き活きとしていた。



そして、そんな折り。

「なんですって!?」
突然声を荒げたシェリルを宥めるように、グレイスがその肩に手を置く。仕方がないわ。と酷く残念そうにシェリルを見つめるグレイスの横でシェリルが項垂れる。
「さっき連絡があったのよ……」
「……それで、大丈夫なんでしょうね」
「えぇ、いつものことだからって」
全く。と額に手を当てたシェリルは、ソファーに深く腰を下ろして嘆息する。そんな彼女に水の入ったグラスを差し出しながらミハエルは少し遠慮がちに問いかけた。

「何か問題でもあったんですか?」

チラリと瞳だけをミハエルへと向けたシェリルは、大有りよ。と引ったくるように、グラスをその手から奪っていった。

2011XXXX Takaya
麗しの少女は静かに嘆く
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -