生まれるいつかを夢に見て
「こいつ、あのシェリルに会えるってんで朝から浮かれててさ。コーヒー溢すわ、椅子に足引っ掻けて転ぶわ、終いにゃボトル割るわで大変だったんだ」
深い青色のボトルを棚に戻しながらオズマは振り返ることなくそう言う。小さく肩が揺れているのは、勿論彼が笑っている証拠だった。
「――ッお兄ちゃん!」
「ランカらしいな」
牽制のつもりでランカが頬を膨らませていたが、案の定そこには何の意味もなく……グラスを傾けてはちまりちまりと酒を舐めていたアルトがそっと横槍を入れる形で激しさを増す。小さな音で流れるジャズの旋律が「もうッアルト君までッ!」と言う悲鳴にも似た怒声に掻き消えた。

「おいおい誰だ?うちのプリンセス・シンデレラを怒らせてるのは」
役者めいた物言いにアルトが頭だけで振り替えれば、サロンを腰に巻き付けながらニヤリと笑うミハエルと目があった。糊の効いたシャツの袖を少しだけたくしあげて「早いな」とアルトの隣に腰を下ろす。
「何だよ。お前これから仕事だろ?」
「いいじゃないか。まだ誰も来てないし、ねぇマスター」
「仕方のないヤツだな」
アンティーク調の時計に目をやれば確かにまだ6時にもなっておらず、アルトはまた少し口内に酒を浸す。甘い熱が喉を通り抜ければどこかふわりと思考が浮くような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。

そして午後6時30分。
今日のステージを準備するためにTV局のスタッフとマネージャーを引き連れた、彼女……シェリル・ノームが現れた。痛みを知らないピンクブロンドを風にのせ、意志の強そうな青い瞳で真っ直ぐに店内を見回す。そして、その美貌に似つかわしくなくも、眉間に深い皺を作った。

「……ガッラガラじゃない」
ホントにこの店流行ってるの?
オーナーであるオズマを目の前に何の気を使うでもなくそう言ってのけたシェリルに、彼女のマネージャーであるグレイスがその名を低く呼んでたしなめる。
「とんだ失礼を、今日はよろしくお願いしますね」
「まだ夜も浅いですから、此方こそ」
あくまで大人同士の対応をしてみせるグレイスとオズマを横目に、とうのシェリルはホールへと足を踏み入れ、何やら照明の位置や、光の当たり具合を確認しているようだ。

「……んだよアイツ」
ボソリとアルトがそう溢す前で、カウンターの向こうからランカはシェリルにこれでもか、と言うほどの熱い視線を送っており。そこにはただ、純粋な強い憧れと羨望だけが見えた。

2011XXXX Takaya
馳せた思いは真っ直ぐに光る
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