テンポ・ディ・ワルツの夢巡り
『でも本当に、素敵ね』

子供達の前で演奏するだなんて、リラのイメージにはぴったりよ。受話器の向こう側から響く、ありったけの喜びが篭ったシェリルの声がとても心地いい。

朝食を終えた後、仕事に向かう2人を送り出したリラは、先ほどフランチェスカから幼稚園での演奏について提案があったことをシェリルに電話で報告していた。そして近頃はリラがめっきり仕事の数を減らしていた所為もあってか、驚きの後の彼女の喜びようは尋常ではなかった。
最終的にあたしも見に行く、と電話口でグレイスにスケジュールを調節させようとしたときは流石のリラも焦りはしたが――なんたって彼女は全国的に有名なトップアーティストだ。縁もゆかりもない幼稚園に突然現れただなんてバレようものなら大騒ぎになる。年明けから始まるツアーにできるだけ同行することでなんとか彼女を納得させたのはつい先程のことだった。

『子供達もきっと喜ぶわ』
「……ありがとう」
『何よ。嬉しくなさそうね』
「うーん、楽しみではあるんだけど……」

やっぱりまだ緊張してるかな。と苦笑まじりに呟いたリラは、そのまま腰掛けていたベットの上に倒れ込んだ。緩やかな曲線を描く細い金糸が薄いミントグリーンのシーツの上に広がる。しなやかな指先で顔に掛かった髪を掻きあげた。そして、そのまま張り詰めた自分の思いを少しでも追い出そうと深く息を吐き出すリラ。

『あたしの全国ツアーについて来れるんだから、市内の幼稚園なんて余裕よ。よ、ゆ、う。どうせ控え室ぐらいでしょ、ステージ』
「それは言い過ぎじゃない?」
『勿論、ジョーク』

スピーカー越しの声と、自分の笑い声がたしかに重なり合い穏やかなその心地にリラはもう一度「ありがとう」と囁くように呟いた。

『どーいたしまして。それじゃ、此れからラジオの収録してくるわ』
「うん、ごめんね。忙しいのに……」
『バカね。あたしは大切な親友と電話一本する時間も取れないようなひよっ子アーティストじゃないわよ?』
「それもそうね。じゃあ、お仕事頑張って」

プツリと小さな突起のついたボタンを押せば、機械的な音が響いたのち、部屋は再び静寂に包まれた。
幼稚園での小さな演奏会は3日後。フランチェスカからのリクエストは1曲だけで、あとはリラに任せるからと言われたため、頭の中でいくつかの曲を巡らせる。

「やっぱりきらきら星変奏曲とそれから――」

小さな鼻歌でメロディを奏でていたリラだったが、窓から差し込む冬の太陽の暖かさに微睡むように意識が薄れていった。

20170803 Takaya
キラキラ溶け込む光の先
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