君が望み給うならば、
あぁそうだ。と思い出したようにフランチェスカが食卓を立ったのは、リラがデザートに出されたマチェドニアの皿を半分ほどあけた時だった。食めば柔らかな甘さが咥内に広がるラフランスは今の季節が旬のせいか他の果物よりも沢山入っている気がする。優しい歯ごたえを堪能しながらリラは少しだけ首を傾げた。

「リラ、貴女今度うちに弾きに来ない?」

「え……ウチって?幼稚園に?」
「そう。気分転換にならない?それに、なんで今まで思いつかなかったんだろうって思ってたのよ」
フランチェスカはテーブルに頬杖をついた状態で、隣に座りスプーンを持つ手をピタリと止めたリラに熱い視線を送った。彼女が贔屓にしているティーサロンで人気のハーブティーがその側で湯気を立てながら爽やかに香る。
幼稚園教諭をしているフランチェスカが勤務する幼稚園はこの近隣だが、確かに今までそんな誘いを受けたことがないためリラは酷く戸惑っていた。

「でもわたし……」

困ったように、どこかダンテの救いの言葉を待っているように眉尻を下げたリラだったが、時すでに遅し。昨晩すでにこの件についてフランチェスカからの提案を受けていたダンテは「一度行ってみたらいいんじゃないかな」と、ティーカップを持ち上げた。まるで春先の青い葉を閉じ込めたかのような爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

「シェリルノームの全国ライブで弾ける貴女が、今更何を怖気付くっていうの?」
「そうだけど……」
「ああ……子供は、怖い?」
「それは……ちょっと違う、かな……」
「なら良いじゃない」

心の優しい、いい子ばかりよ。
記憶の中に宿るその姿を想像したのか、リラの頭をそっと撫でたフランチェスカの手は、とても優しくて暖かい。ずるいなぁ、と思いながらも甘んじてその手を受け入れていたリラは「何を弾いたらいい?」とようやく少し笑った。

20170628 Takaya
断る術など知るはずもなく
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