せめて瞬きの一つになれるように
季節外れの花火大会は姉、オリーヴィアの夫であり、ダンテにとっては義兄であるヘンドリックの両親が暮らす片田舎で毎年行われる恒例行事だった。
寒天の空に燦然と輝く巨大な花々はそれは美しく、幻想的でダンテも姉夫婦に誘われてフランチェスカと何度か観に行ったことがあった。姉夫婦にとっては毎年家族3人で揃って出かけるいわば小旅行のようなもので、忙しなく働く姉にしては珍しくその時期になると1週間程の休暇をとっては都会の喧騒から離れたその場所でゆっくりとした時間を過ごしていた。



「今年で終わりみたい。会場があんな田舎じゃ仕方がないのかもしれないけど……40年近く続く行事だったし、リラも幼い頃から知ってるから随分寂しがってるわ」

まぁ、ヘンドリック程じゃあないけどね。
ダンテが電話口に笑う姉の明るい声を聞いたのはその日が最後だった。





とても不運な事故だった。
花火大会前日まで一週間ほど続いた雨の影響で、義兄の実家へ向かうまでの山道が土砂崩れを起こしたのである。地域開拓のために大型のトラクターが頻繁に通るようになったことも地盤の劣化への原因の1つとしてみられていた。
事故に巻き込まれたのは全部で4台の一般車。亡くなったのは姉夫婦と、同じように花火大会を目的に向かっていた家族連れの中の幼い息子が1人、近隣に住む中年夫婦とその愛犬の計5人と1匹だった。

レスキュー隊が駆けつけた時、リラ達の乗る車は3分の2程が土砂の下敷きになっており、運転席と助手席に座っていた姉夫婦は完全に生き埋めとなり、土砂による圧迫が主な死因だったそうだ。そんな重たい土砂に押し潰される形となった車体の後部座席でリラは独り、なんとか息のある状態で見つかったのだ。
前を走る中年夫婦の車が全て土砂に飲み込まれるのを見たヘンドリックが咄嗟に強くブレーキを踏んでハンドルを山の方へと切ったため、道路に対して横を向いた車体のボンネット側から土砂が襲ったことが奇跡的にリラだけが助かった要因であるとダンテは救命士から説明を受けたことを今でも覚えている。あと少しヘンドリックの反応が遅ければ、3人とも暗く重たい土砂の下で息をすることもできずに命を落としていただろうとも彼は付け足した。

せめて娘だけでも。冷たい土砂に呑まれるその最後の一瞬、彼らはきっとそう願ったのだろう。事故後、土砂の中から掘り返された2人のその手は固く結ばれていた。
そうして2人の命を代償に、この世に生をとどめることが出来た少女。一回り離れた姉よりも年の近いリラを生まれた頃から実の妹のように可愛がっていたダンテは、この先彼女とその未来を姉夫婦の代わりに護り、導いていくことを誓ったのだった。

20170619 Takaya
君が大切な誰かを見つけるまで
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