俺は失念していたのだ。自分がどうしようもないくらい運が悪くてトラブル体質だったっていうことを。


ハグリッドの小屋の前に行くとハグリッドが立っており、その足下に木箱が数個置いてあった。

その中身は『尻尾爆発スクリュート』という生き物らしく殻をむかれた奇形の伊勢エビのような姿で、青白いヌメヌメした胴体から勝手きままな場所に脚が突き出ていた。

あきらかに気持ち悪いだろ。ハグリッドの趣味、まじで疑うぜ…

一箱におよそ百匹以上いるだろうその生き物に誰もが眉をひそめた。

ハグリッドはそいつらに餌を与えるよう、俺たちに命じ、ニコニコとした様子でこちらを見ていた。

ディーン・トーマスが「アイタッ!」と叫び声をあげ、何事かと思って見ていると、すぐ隣で「ギャーッ!」という少女(恐らくラベンダー・ブラウンだ)の叫び声と箱が俺の方に向かって倒されるのを見た。



「おわあぁああああ!!!」

気付けば『尻尾爆発スクリュート』たちがいっせいに俺に向かって飛びかかってきており、俺はあっという間にそいつらに埋もれた。


嫌な予感がする。

「ちょ!まっ…わあああああ」


ボンッ!

嫌な予感は的中し、『尻尾爆発スクリュート』たちはその名の通り、いっせいに尻尾を爆発させた。


結果、俺は午後の授業を休むことになった。あれから全身に火傷を負った俺はもちろん大急ぎでマダム・ポンフリーの所に運びこまれたのだ。




「れんれん、大丈夫か?」
「ああ、もうマダムに治してもらったし…それよりカイン、午後の授業終わったのか?」
「ああ。それと…」

カインがドアの方に目線をやると、そこには恐る恐るこちらを覗いている少女の姿があった。

「どうしたの?」
なるべく優しく声をかけてやれば、少女はおずおずと室内へ入ってきた。

「あの…わたし、わたしが箱、倒したせいであなたを…」
瞳に涙をいっぱい溜めてこちらを見る少女、ラベンダー・ブラウン。確かに彼女が箱を倒さなければ、こうはならなかっただろう。でも

「君のせいじゃないよ。俺が不注意だったんだ。だから泣かないで?せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
そう言って微笑めば、ラベンダーは顔を真っ赤にしてこちらを見た。

「あ、あの…でも…ごめんなさい」
「うん。もう俺は大丈夫だから、気に病まなくていいからね」
「……ありがとう、ヒナタ」

そう言ってラベンダーは、頬を染め、パタパタと部屋を出て行った。




「女好きか」
横を見るとカインが無表情で突っ立っていた。(まあいつも無表情だけど)

「女の子には優しくしろってのが、小さい頃から家で叩き込まれてんだよ。まあ実際女の子は好きだし、別に否定しないけど」

そう、今はもういない親父に「女の子は宝だ!」って、小さい頃から教え込まれたんだよな。母さんにベタ惚れで頭上がんなかった馬鹿親父だけど…。

「そうか…」

カインは何か考えてるようだった。でもそんな事より、そろそろ寮戻っちゃ駄目かな?

「ヒナタ…ああ、ジュリアスまでいたのね」
ちょうどタイミングよく、マダム・ポンフリーが部屋に戻ってきて声をかけてきた。

「マダム、そろそろ、寮戻っちゃ駄目ですか?」
「そうね…もう火傷も治ったようだし、戻っても大丈夫よ。ただし、無理はしないように」
「はい、ありがとうございました。カイン、行こうぜ」

マダムから許可をもらった俺たちは寮へ戻ることにした。