天国まで、続いてくような しおりを挟むしおりから読む目次へ 白球の軌跡を追って、見上げた空は快晴だった。 あまりの明るさに目が眩んだ。けれど、ボールの行方を追い続けるのを止めることは出来なかった。 それはぐんぐんと天空に吸い込まれるように、遠く高くに飛んでいき――。 フェンスを越えた瞬間の、静寂。 それをすぐさま打ち破る、歓声。 マウンドに立っていた彼は、ボールの行方を茫然と見届けて――それから額の汗を拭った。 最後まで打球を追い続けていた彼は、何かを堪えるように天を仰いだ。 そして、ずっとミットを構えていた彼は。 ゆっくりと立ち上がり、マスクを外した。それから遠い眼差しで、スコアボードを見つめた。 最後の、夏。 それが終わった瞬間だった――。 * * * 「あ……っつい」 忙しなく鳴いている蝉の声をBGMにして、わたし――瀬戸初璃(せと・はつり)は呟いた。 もうすぐ八月、夏休みの真っ只中。受験生という立場であるにもかかわらず、家族がいないのをいいことに、わたしは自宅のリビングのソファーにだらしなく寝そべっていた。 暑いけど、クーラーはつけてない。そのかわり、すぐ近くで扇風機がフル稼動している。その風を一身に受けながら、わたしはテーブルの上のグラスに手を伸ばす。 目一杯氷を入れた麦茶のグラスは表面に汗をかいていて、その下はすっかりびしょびしょだった。手を滑らせないように注意深く、わたしはそれを手に取る。 少しだけ身体を起こして、麦茶を飲んだ。氷のおかげでぬるくはない。だけど、だらけきった思考をしゃっきりさせるには力不足のようで――わたしはグラスを元の位置に置いて、枕代わりにしていたクッションに顔を埋めた。 何をしようにも、やる気が起きない。それは、けっして暑さのせいだけじゃなくて。 起き上がろうとして脳裏をよぎるのは、あの日の彼の姿。フェンス越しに見えた、真っ直ぐに堂々とした立ち姿。 その姿が眩しくて、痛くって。 (――遠い、なぁ) そう思った瞬間から、わたしは身動きが取れなくなってしまったのだ。 |