彼女と夏空少年 しおりを挟むしおりから読む目次へ しとしとと降る雨の中、傘を片手に二人で歩く。やっぱり言葉はないけれど、さっきまでの重い気持ちもイライラも、今はどこかに消えてしまった。 少しだけ速度を落として、わたしは間宮の半歩後ろに下がった。視界に入るのは、白いシャツの広い背中。 雨が上がれば、また輝く太陽の下での練習が始まる。そして梅雨が明ける頃には、もう本番が始まっているのだ。 くるくると傘を回して思いを馳せる。夏空の下で暴れ回る、大事な仲間たちの姿。 (どこまで行けるかな) この夏は――最後の夏は、一体どこまで行けるだろう。願わくは、できるだけ長く長く勝ち続けて欲しいけど。 「藤原?」 不思議そうな顔をして、間宮が振り返った。すっかり逞しくなった後ろ姿とは裏腹に、向けられる表情は随分と子どもじみていて、わたしは思わず笑みを浮かべる。 そして、言った。 「いい夏にしようね」 三年間の集大成。精一杯、後悔のないように。 応援しよう。支えよう。そして最後まで見守ろう――それが、わたしの仕事だから。 自分でも珍しいと思うくらい、にっこりと笑ってみせると、間宮は何度か瞬いて――そして破顔した。 「おぅ!」 力強い返事と共に掲げられた手。その厚い掌の前に、わたしも自分の手を上げた。 ぱちんと互いの手を弾く、その音が雨音の中に響いた。 さあ、夏はすぐそこだ。 『彼女と夏空少年』終 |