天国まで、続いてくような
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 あの日の光景を思い出すと、胸がつまった。

 例年にない快進撃を続けていた、ウチの学校の野球部。

 初戦こそ、まだ学校があったから行けなかったけど、休みに入ってからは毎試合ごとにわたしは球場に足を運んだ。

 試合を観るのは、小さい頃から好きだった。応援してるチームが勝てば嬉しいし、負ければ悔しいし――それは今も変わらない。

 でも、それ以上に怖かったんだ。勝ってくれるのは嬉しかったけど、どんどん先に進んでいく姿は頼もしかったけど。

 金網一枚隔てた向こう側の世界は、わたしには眩しすぎた。見つめてるだけで、胸が千切れそうになるくらいに。そして、そこに佇む彼の姿が何だかひどく遠いものに思えたんだ。

 彼らの夏が終わったあの日も、わたしは美希(みき)ちゃんと二人、外野席にいた。

 試合が終了した後のダッグアウト。

 成瀬(なるせ)くんが時々目元を擦りながら、泣いてる後輩達の肩を叩いていた。

 彼らから少し離れた所で、皆と同じ帽子を目深にかぶった冴香(さやか)が俯いていた。その背後からマミーが大きなタオルを被せて、その手で彼女の頭を掻き回した。冴香は文句を言う様子もなく、そのまま彼の側に立ち続けていた。

 そして、曽根(そね)は。

 彼は一人、マウンドを見つめていた。真っ直ぐに、身動ぎひとつしないで。まだ熱の残るその場所を、じっと見つめていた。

 一度だけ、乱暴に目を拭った。

 そして、後輩の呼び声に振り返り――そのまま皆のもとへと向かって歩きだした。

 背筋をしっかりと伸ばした、凛とした姿。男の子を見てキレイだなんて思ったの、はじめてだった。

 不意に、隣に立つ美希ちゃんが喘ぐみたいに呼吸した。もしかしたら、と思って横目で表情を窺う。けれど、彼女は泣いてはいなかった。唇を噛み締めて、両手を握り締めて、フェンスの向こう側を見ていた。

 一人じゃなくて良かったと心から思った。今、わたしと美希ちゃんが感じているものは――見てる世界は、きっと同じだろうから。

 フェンス越しの世界は眩しかった。そして、そこにいる彼らに見えているのはわたし達とはまったく違うもののはずだ。

 遠ざかる背番号『2』の後ろ姿を見送りながら、眉根を寄せる。泣きたい衝動は、ずっとわたしの中にあった。でも泣けなかった。美希ちゃんと同じように、ただ唇を噛んで堪えることしかできなかった。

 だって、わたしは知らないから――分からないから。

 真剣で、ひたむきな熱が渦巻いていたあの場所で。目が眩みそうになるくらい、輝いていたあの場所で。

 最後に、彼は何を思っていたんだろう――。



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