さくら、ひらひら 5
しおりを挟むしおりから読む目次へ








 指定時間の十分前。

 待ち合わせ場所の駅前に着いて、わたしは大きく息をついた。

 気が急いていたため、つい早足になってしまい――結果、乱れた前髪を直しながらきょろきょろと辺りを見回す。

(まだ来てないか)

 待ち合わせの相手の姿がなかったので、わたしは肩の力を抜いた。そして、そっと洋服のお腹の辺りをつまんでみる。

(おかしくないよねぇ……?)

 家を出てくる前にしっかりチェックした、鏡に映った自分の姿を思い出す。ロングカーディガンに、カジュアルな感じのワンピース、そして足元は普段履いてるのより少しヒールの高い靴。でも履き慣れてるものだから、転ぶことはないだろう。

 目的はお花見なんだから、そんなに気負う必要はない。だけど久しぶりのデートなんだから、やっぱりそれらしく見てもらいたいわけで。

 それでも場所は商店街。あんまり気合いを入れすぎてもイタイことになっちゃうだろうからと、前日まで散々悩んだあげく――それなりに無難な格好に落ち着いた。

(あー、だけど!)

 ひどく落ち着かない気分で、わたしは頭に手をやる。そこにいつものお団子はない。

(やっぱ、いつも通りにしておけばよかったかなあ……)

 いつもと違って、ゆるく巻いて下ろしてあるそれを引っ張りながら、ごく小さく唸り声をあげてみた。

 髪の毛を下ろすのは、曽根に頭を撫でてもらいたいから。お団子があると崩しちゃ悪いと思うのか、いつも彼は一瞬触れるのを躊躇する。(それでもやるときはやるんだけどさ)

 優しくそっと触れられたり、くしゃくしゃっと少し乱暴に掻き混ぜられたり――付き合って半年ちょっと経つけれど、未だにどきどきしてしまう。だけど、その一方でひどく安心して。

 大きくてごつごつした、いつもあったかい彼の掌。わたしはそれが大好きだ。

 そして下ろした髪を巻いたのは、やっぱりいつもより可愛く見られたいと思うから。曽根は面と向かって『可愛い』と言ってくれる人ではないから、褒め言葉は期待してない。だけどその代わり、彼は表情と仕草でそれを伝えてくれるから。

 照れたとき、一瞬困ったように眉を寄せる。怖いくらい真っ直ぐな黒い瞳が、かすかに揺らいで。そして首の後ろに手を持っていく――それが、この半年で気がついた彼の癖。


- 193 -

[*前] | [次#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -