さくら、ひらひら 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 最近、視界が妙に暗い。 そんなことを考えて、俺はグラ整する手を止めた。トンボに寄りかかって、ふと空を見上げてみる。 そこに広がるのは青空。今日の天気は間違いなく、晴れだ。今日だけじゃない。ここ数日は穏やかな晴れの日が続いている。 だから、視界が暗いなんてのはあり得ない話で。 だけど、どうにも俺の目に映る世界はぱっとしなくて。まるで梅雨時に野球が出来ないときみたいな、鬱々とした気分になる。よって、俺の機嫌は下降気味だ。 そこに気分を逆なでするような、能天気な声が聞こえてきた。 「タカー」 「……ンだよ?」 やつあたりだと分かっていながら、俺は呼び掛けてきた相手を睨んだ。しかし中学時代からの付き合いであるソイツはまったく頓着する様子もなく、あっけらかんと話しかけてくる。 「藤原(ふじわら)が呼んでんだけど――って。お前、なんつうカオしてんのっ?」 俺、今日はまだ何もやってないよね? と表情を引きつらせてソイツ――部活仲間で俺の相方の間宮哲(まみや・てつ)は、大げさに後退ってみせた。 それを見て俺――曽根隆志(そね・たかし)はげんなりとため息をつく。 「何かやらかす予定があんのかよ……」 「いいえ滅相もございません。だけど予定は未定ですので何とぞ穏便に」 「アホか」 哲のふざけた科白を切り捨てて、俺はトンボを担いで歩きだした。その横をヤツもついて来る。 「何かあったかー?」 いつもと変わらず、間延びした調子で訊ねてくる哲。俺はそっちに目を向けることなく、答えた。 「別にねーけど」 今日はまだ気に障るようなことはされてない。天気もいいし、絶好の野球日和で。 特別にいいこともないかわりに、悪いこともなかった。だけど俺の気分はどうにもすっきりしない。 そんな俺の様子に哲も釈然としないようで、隣でしきりに首を傾げていた。だがそれ以上、問うこともしない。 妙な沈黙をまとったまま、俺たちはベンチに向かう。すると、そこからよく知った女の声がかかった。 「……何てカオしてんのよ」 「は?」 前触れなく告げられた科白に視線を向けると、ジャージ姿の女子――この野球部の三年生マネジである藤原冴香(ふじわら・さやか)が、露骨に顔をしかめつつ『ココ!』と自らの眉間を指差した。 |