さくら、ひらひら 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「散々謝っただろっ」 「それでもグチりたいときだってあるの!」 ぷいっと拗ねたみたいにそっぽを向いた彼女に、成瀬くんは深々とため息をついた。そして。 「分かった。……勝手にしろ」 「するもん」 「ええっ!? ちょっと二人ともっ?」 何だか雲行きが怪しくなってきた二人に、わたしは慌てて声をかける。しかし、成瀬くんは心配ないとでも言うように、ひらひらと片手を振ってみせた。 「大丈夫だよ、行っといで」 「え、でも……」 「別に怒ってないからさ。付き合ってやって」 そして、美希ちゃんには聞こえないように声をひそめる。 「……忙しいのは、俺もおんなじだから」 そう言って、成瀬くんは困ったように笑った。それを見て、わたしは不謹慎にもほっとしてしまった。 (美希ちゃんも、わたしと同じなんだ) 大好きな野球を頑張ってる彼の邪魔はしたくないけど、寂しいキモチはいつも何処かにあって。 でも、それを本人にそのままぶつけたりは出来ないから悶々としてしまう。 成瀬くんは、そういうことも全部分かってるみたいで。だから美希ちゃんが拗ねてみせても、怒ったりしない。 (――じゃあ、曽根は?) 彼はどうだろう。目の前の友達のカレより、ずっと短気で野球バカな彼を思い浮かべてみる。 (怒りはしない、かな) むしろ曽根の場合。 (こうやって何も言わないで、ぐずぐずしてるのを怒りそうだよね) 思いついた可能性に、軽く身震いする。うん。やっぱり成瀬くんの言う通り、早めに話をしよう。曽根だって「言いたいことは言え」って、何かあるたびに言ってくれてるんだ。いつまでも一人でうじうじしてたら、まるで彼を信じてないみたいだもんね。 ちょっと寂しくなっただけだ。「大丈夫」って一言聞けたら、またちゃんと頑張れる。 頑張ってる彼を、素直な気持ちで応援できるはずだ。 だけど今日は無理。一度、きちんと気持ちを切り替えて向かい合いたい。 なので、わたしは成瀬くんから顔を背けたままの美希ちゃんに、静かに声をかけた。 「そしたら、付き合ってもらおうかな」 「ホントにっ?」 ぱっと顔をこちらに向ける美希ちゃん。あらら、そんな嬉しそうなカオしちゃって。わたしがお願いしてる立場だっていうのに。 それとも。 (結構、ため込んでるのかなぁ……) そう思って、ちらりと視線を成瀬くんに走らせる。彼は素知らぬ顔で、わたしたちの会話を見守っていた。 若干、表情が冴えないのは――気のせいではなさそうだ。 (ごめんね、成瀬くん) わたしの愚痴を聞かせたせいで、美希ちゃんの地雷を踏んでしまったのは確実だ。両方から責められる形になったっていうのに、それでも成瀬くんは怒ったりしないで見守ってくれている。 (なんってイイヒトなんだ……!) 今度何か埋め合わせするから! とか、美希ちゃんが文句を言ってもちゃんとフォローしとくから! とか、いろんな決意を固めつつ、わたしは放課後デートの予定を立てるべく、再び美希ちゃんに声をかけたのだった。 【続】 |