さくら、ひらひら 1
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 季節の巡りを目にして思い出した。

 小さい頃の優しい記憶。


 わたし、瀬戸初璃(せと・はつり)は三年生になりました。

 とはいっても、まだ成り立てほやほやだから、いきなり『受験生!』という緊張感もない。クラス替えもなかったから特に代わり映えもなく、麗らかな日々を平穏に過ごしている。

 唯一、悩みがあるとすれば『受験生』ゆえに選択授業が増えたこと。HR教室で受ける科目は必修のいくつかに限られている。なので同じクラスの人間でも、人によってはほとんど顔を合わせることがない日もあるわけで。

 つまり、今のわたしと曽根(そね)みたいに。



「それなのにさー」

 唇を尖らせながら、手元のプリントをシャーペンでツンツンとやる。今の時間は選択科目のひとつ、生物の時間だ。とはいえ、先生が出張で自習のため、おしゃべりを咎められることはない。

「部活終わるの待ってると、曽根ってば『先に帰れ』って言うんだよ? もう寒くないし、日も延びたから少しぐらい遅くまで残ってたってヘーキなのに」

「まあ……何だかんだ忙しくて遅くなっちゃうからなあ。曽根も心配なんだよ、瀬戸サンのこと」

 彼氏に対する文句たらたらなわたしに、斜め前の席に座った成瀬(なるせ)くんが苦笑した。フルネームは成瀬新(あらた)くん。わたしの彼氏である曽根隆志(たかし)と同じ野球部で、主将を務めている。クラスは違うんだけど、この生物の授業は一緒。その彼の言葉に、わたしは頬を膨らませた。

「気持ちは嬉しいけど、そうでもしないと一緒にいる時間ないんだもん! わたしと曽根とじゃ、選択してる教科が違うから、授業中に観察も出来ないし」

 その上、選択教科の授業は特別教室に移動しなければならない。ということは、休み時間もその移動にあてられるわけで……ゆっくり話も出来ないんだ、最近。

 だから少しでも一緒にいようと思って、こっちは色々考えてるのにさ。曽根ってば、そういうの察しもしないで相変わらず部活三昧で。

 ブツブツと小声でぶーたれていると、成瀬くんが呆れたような声で言った。

「観察してんだ……」

「文句でも?」

「いえ別に」

 若干引きつった顔で彼は首を横に振る。何か最近、成瀬くんに怯えられてるような気がするんだけど気のせいだろうか。

 わたしは深々とため息をついて、シャーペンを机に転がした。ダメだ。イライラして、やる気になんない。こっそり抜けて、自販機でジュースでも買ってこようかなあ。

 そんなことをつらつらと考えてると、それまでずっと黙っていた隣の席の女の子が口を開いた。


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