いちばん悪いのだーれ? しおりを挟むしおりから読む目次へ 「『椅子を押さえとくのは、俺に任せろ』ってこと?」 「他に何があんだよー」 間宮くんが憮然として、唇を尖らせます。すると、それまで黙っていた曽根くんが盛大に舌打ちをしました。 「ンだよ、紛らわしい言い方してんじゃねえよ!」 そしてガシガシと頭を掻き毟りながら、小声で呟きます。 「……マジ焦った」 「勝手に勘違いしたのは、そっちだろー?」 「やかましい! ったく、人騒がせな……」 ぶーぶーと文句を言う間宮くんを、一喝する藤原さん。彼女は偉そうな態度をそのままに、彼にびしっと指を突きつけました。 「間宮、グラウンド三周」 「何でっ?」 「ムカついたから」 「ひど!」 「あと成瀬もね」 「俺ぇっ?」 いきなり矛先が自分に向いて、成瀬くんは目を丸くしました。それに藤原さんは尊大な口調で言い放ちます。 「あんたがヘンな勘違いしたせいで、騒ぎが大きくなったんでしょーが」 「いちばん大声あげたのはお前と曽根……」 「何か言った?」 「何でもナイです」 ぎろりと睨まれて、成瀬くんは踵を返しました。そして、すっかりいじけている間宮くんの肩を叩くと、コソコソとその場を立ち去ろうとします。 そこに瀬戸さんの静かな声が響きました。 「曽根」 「あ?」 無愛想に応じた曽根くんに、瀬戸さんはにっこりと微笑みかけます。 「わたしとマミーが何をしてると思ったの?」 「いや、あの」 有無を言わせない雰囲気で自分を見上げている瀬戸さんに、曽根くんはたじろぎました。 「何をどう勘違いして、疑ってたのかなあ」 「えーと」 小柄な身体からほとばしる威圧感に、後退る曽根くん。瀬戸さんはこれ以上ないくらいの極上の笑みを浮かべて、かわいらしい声で言いました。 「曽根」 「……お、おう」 「あんたも三周」 「――ウス」 頬を引きつらせて頷く曽根くん。その珍しい光景を見て、成瀬くんと間宮くんはゴクリと唾を飲み込みました。 (瀬戸サンって……) (藤原より怖え……) そして、すごすごと部室を後にする男三人のすすけた後ろ姿を。 やっぱり状況が掴めなくて、綾部さんは目をぱちくりとさせて見送ったのでした――。 〜その日の帰り道、成瀬と綾部の会話〜 「ねーねー」 「んー?」 「結局、みんな初璃ちゃん達が何してると思ってたの?」 「……マジで分かんない?」 「分かんないから訊(き)いてるんじゃん」 「(……絶対言えねえっ!)」 「成瀬ってばー」 その後、彼は彼女をごまかすのに大変な思いをしたそうな。 おしまい。 |