さくら、ひらひら 1
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「成瀬ー、ここ分かんない」

「……どれ?」

 一瞬の間を空けて成瀬くんは『仕方ないなあ』というように、その声に応じた。

「えーと、ここ」

 ちょっと困ったみたいに眉を下げて、その子はプリントのある箇所を指し示す。そんな彼女をまじまじと見ながら、わたしは感心した。

「美希(みき)ちゃんはマジメだねえ」

 というか、驚くほどのマイペースっていうか。普通、隣と前とでおしゃべりしてたら意識がそっちに向きそうなものだけど。彼女――綾部(あやべ)美希ちゃんは今の今まで黙ったまま、真面目に課題に取り組んでいた。

「コレ、次の授業までにやっとけばいいって言ってなかったっけ?」

 手元のプリントを指して、わたしは首を傾げた。そのつもりで早々と諦めようとしてたんだけど。

 すると、美希ちゃんはこちらを向いて苦笑い。

「後回しにすると忘れちゃうから。それに」

 成瀬が時間あるときじゃないと、質問するの悪いしさ。

 そう言って、彼女はにっこり笑った。

(ううっ、何て可愛いんだ)

 つられて口元をゆるめながら、ちらりと成瀬くんの顔を窺う。すると、そこには不自然にそっぽを向いてる彼の姿。

(うわあ耳が赤いよ、成瀬くん)

 普段は落ち着いてる彼も、カノジョである美希ちゃんの可愛さには形無しのようだ。

「いいなあ……」

 思わず声が出た。その呟きにきょとんと瞬く二人を見比べて、わたしは頬杖をつく。

「仲良しさんだよね、二人」

「初璃ちゃん、曽根くんとケンカしたの?」

 わたしの言葉に、美希ちゃんは心配そうなカオをして訊ねてきた。その問いにわたしは首を横に振る。

「ケンカできるほど話してないの、最近」

 そう言って深いため息をついたわたしに、美希ちゃんと成瀬くんは困ったように顔を見合わせた。

 わたしと曽根――去年は同じクラスでも、教室ではほとんどそれぞれの友達と過ごしてた。付き合ってるのは周知の事実だったけど、変に気を遣われるのも嫌だったから、いたってフツーに振る舞ってたつもり。

 それでも授業の合間の休み時間には、ちょこちょこと話すことは出来た。放課後だって、曽根の部活が終わるのを待ってさえいれば、ゆっくり話す時間もあった。

 だけど最近は――教室移動に時間を取られたり、曽根の部活も去年以上に忙しくなったりして、同じ空間にいることすらままならない。当たり前だ、今年が最後なんだもん。チームの中心なんだから、誰より頑張るに決まってる。それでこそ、曽根だって思うんだけど。

 何かホントに。

「足りない」

「何が?」

「曽根が」

 端的に返したわたしの科白に、成瀬くんが「うわー」と言って額を押さえた。


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