そうして始まる僕らのカタチ 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 当たり前だけど、盗み聞きしようと思ったわけではなくて。 ただあいつがこの中に居るんだと思ったら、動けなくなっただけ。 「成瀬……」 呆然とした表情で綾部が呟いた。その向こうにはやたらびっくりした様子の瀬戸サンと、ニヤニヤ嗤っている藤原の姿が見える。 「い、いつから?」 呟いたきり黙ってしまった綾部の代わりに、瀬戸サンが訊ねてきた。しかし、それに答えたのは俺ではなく。 「『いいじゃない、分からなくたって』の辺りから」 「藤原っ!」 「そ、そこから?」 嘯くように答えた藤原に、俺は険のある声を、瀬戸サンはすっとんきょうな声をそれぞれあげた。綾部は表情を強ばらせたまま、何も言わない。 「だって窓から見えたもの」 「だから、やたらと後半ニヤニヤしてたのね……」 全く悪びれた素振りのない藤原に、瀬戸サンは盛大に顔をしかめてみせた。だが藤原は堪えない。 「まさか盗み聞きするとは思わなかったけど」 「……するつもりはなかったよ」 結果的には聞いていたのだからあまり強くは言えず、俺はぼそぼそと否定した。すると、視界の隅で綾部が動いた。 「あああああのっ」 耳まで真っ赤に染めた彼女が口を開いた。 「わたし、ええと、あの忘れ物があって」 取りに行かなくちゃ。独り言みたいに呟くと、綾部は瀬戸サンと藤原に向かって頭を下げる。 「ありがとうっ! お邪魔しました!」 そして言うやいなや、素早い動きで俺の脇を通り抜けていく。 「あ、おいっ!」 呼び止めた俺に振り返って、彼女は小さく言った。 「ごめんね」 「は?」 ――何が? 何で? 『成瀬が特別なヒトになってくれたらな』 そこまで言っといて。 「……どうして謝る?」 「あららー、いい逃げっぷりですこと」 「わたしはちょっと既視感(デジャビュ)だなあ……」 場違いなほど暢気な二人の声に、呆然としてた俺は我に返った。そして藤原に向き直る。 「お前、気付いても黙ってる優しさはないのかよ……」 心底恨めしい。そういう口調で言ってやるが、藤原が反省の色を見せる様子はない。それどころか。 「よかったじゃない、本音が聞けて」 ニマニマと嗤いながら、そうのたまった。俺はがっくりと肩を落とす。 「それで逃げられたんじゃ、しょうがないだろ」 「そうだよ!」 突然、瀬戸サンが大声をあげた。俺は落とした肩をビクッと揺らす。視線を向けると、そこには興奮した面持ちの彼女の姿。瀬戸サンが俺に掴み掛からんばかりの勢いで言う。 |