そんなハジマリ 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 俺の隣の席のコは、はっきり言って変わってる。 四階建ての校舎の三階にある教室。そこの窓際の席には、柔らかい陽光が降り注いでいる。 昼休みの開始を告げたチャイムが鳴ったのは十五分前。早々と弁当を食い終わった俺――成瀬新(なるせ・あらた)は、太陽の恩恵を一身に受けて、机に突っ伏していた。 (このまま五限が始まるまで寝よ) 幸い、教室移動もない。すっかりその気になった俺が夢の世界へ旅立とうとした、そのときだ。 カタン、と隣の席の椅子が引かれた音がした。 (……来た) 内心ぎくりとするが、俺は顔を伏せたまま寝たふりを決め込む。せっかくの気持ちいい時間を邪魔されたくない。しかし無情にも、声は降り掛かってきた。 「ねえねえ、成瀬」 「……」 「ねえねえねえ」 「………」 「ねえねえねえねえ!」 「…………」 俺の無言の抵抗も、相手が構う様子はない。うるさい俺は寝るの眠いのあっち行け。 しかし、相手は一歩も引かない。 「成瀬ってばー! 訊(き)きたいことがあるんだってばー」 ――分かってるから無視してんだよ、このやろう。 ゆっさゆさと肩を揺さ振られながら、俺は胸中で毒づいた。だが揺れは止まらない。勢いは増すばかりだ。 「ねーねーねーねー!」 「やかましいっ!」 結局そのしつこさに負けて、俺はガバッと身を起こした。そして貴重な睡眠の邪魔をしやがった相手を睨みつける。 「わーい起きたー」 「お前が起こしたんだろが」 綾部(あやべ)、と。 俺は唸るようにその名を呼んだ。 綾部美希(あやべ・みき)――二年連続のクラスメイトにして現在は隣の席の女子だ。彼女は肩にかかる黒髪を揺らして、首をかしげた。顔には実に人当たりの良い笑みを浮かべている。(この笑顔が曲者なんだけど) そして、あっけらかんと俺に言った。 |