そんなハジマリ 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「だって訊(き)きたいことがあったからさー」 「俺の都合は無視かい」 「タダでとは言いませんぜ、旦那」 俺の科白にニコニコしながら、片手を振る綾部。そして反対側の手をこちらに差し出してきた。 その手にあったものは、ブラック無糖の缶コーヒー。 「……珍しいな、お前」 両目をぱちぱちとさせながら、俺は綾部と缶コーヒーを見比べた。今までに俺は何度か綾部の質問(大体が空は何で青いんだとか、虹は何で七色なんだとか。内容は小学生レベルのもんだ)に根気よくつきあってやったことがある。コイツ、人のことを百科事典かパソコンみたいに思ってるフシがあるからな。毎度つきあってる俺も俺なんだけど。 まあ、そんな中でも一度としてコイツはこういうお礼の品っていうのを持ってきたことがない。だから、珍しい。俺は不審に思いながら、真面目な口調で綾部に訊ねた。 「……何が目的だ?」 英語の課題か? 放課後の掃除か? 俺があからさまに疑念の眼差しを向けると、綾部は大袈裟に頬を膨らませた。 「だから! 訊きたいことがあるだけだってば!」 そしてぐいっと缶を押しつけられる。手の中の冷たさを認識して、俺はため息をついた。 仕方ない。昼寝は諦めるか。もう眠気はほとんど覚めちまったし。 プシッと小気味よい音をたてて、プルタブを引く。そして横目で彼女を見て、缶を口元に運んだ。 「で、今度は何?」 一口飲んだコーヒーはよく冷えてて旨かった。 俺が話を促してやると、綾部はガタガタと椅子をこちらに寄せてくる。その瞳は好奇心旺盛な子供さながらに、きらきらしていた。 ……こういうカオを計算なしでやるから、つい真剣に相手しちまうんだよな。つい先日も『ブロッケン現象は何故平地では起こらないのか』という疑問について、とことん説明してやったばかりだ。 だから、まさかコイツからそんな質問が出るなんて思いもしなかったんだ。 |